【JRA給付金問題】業界二分のスキャンダル

 大阪市の男性税理士が日本中央競馬会の調教助手らに送付した案内文(関係者提供・画像の一部を加工しています)
 大阪市の男性税理士が日本中央競馬会の調教助手らに送付した案内文(関係者提供・画像の一部を加工しています)
新型コロナウイルス禍にもかかわらず、活況の競馬界。飲食店や観光業などが苦境にあえぐ裏で、騎手や調教師ら163人が持続化給付金を不適切に懐に入れていた。業界に顔が利く税理士の甘い誘いを断るのは難しかったか。ただ、尻馬に乗らなかった関係者も多く.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 新型コロナウイルス禍にもかかわらず、活況の競馬界。飲食店や観光業などが苦境にあえぐ裏で、騎手や調教師ら163人が持続化給付金を不適切に懐に入れていた。業界に顔が利く税理士の甘い誘いを断るのは難しかったか。ただ、尻馬に乗らなかった関係者も多く、その視線は冷たい。未曽有の感染症は競馬界を二分するスキャンダルをも引き起こした。[br][br] ▽うわさ[br] 「俺たちも受給できるかもしれない」。第1波を乗り越えた気配が漂っていた昨年6月上旬、茨城県美浦村と滋賀県栗東市にある日本中央競馬会(JRA)のトレーニングセンターで働く調教助手たちに、金のうわさが広がった。助手たちは仲間とLINE(ライン)で頻繁に情報交換し、最大100万円が手に入ると大いに盛り上がった。[br][br] きっかけになったとみられるのが、馬主でもあり、業界内では名が知られた存在だった大阪市の男性税理士からの案内文だ。昨年5月の持続化給付金の申請受け付け開始直後から関係者に配られ始め、もうけ話は2700人ほどの業界を駆け巡った。[br][br] 「原則全員が給付対象」「満額も可能」。こうした誘い文句を見せつけられた関係者が次々と受給していった。新型コロナによる打撃が少なかった業界には、2億円近い税金が流れ込み、受給者の一部からは男性税理士に7~10%の成功報酬が支払われた。この税理士は104人の申請に関与していたとされ、1千万円前後を得ていた計算になる。 ▽亀裂 受給者の割合は「西高東低」となった。要因は東西の税理士が正反対の対応を取ったからだ。 美浦の関係者の確定申告を多数請け負う関東の男性税理士は、早い段階から「今回の給付金の趣旨に合わない」と、持続化給付金の申請をしないよう呼び掛けていた。一方、栗東に多くの顧客を抱える大阪市の男性税理士は積極的な営業活動を実施。旧知の競馬記者までをも巻き込み、勧誘をさせていた。 「危ない話だ」。美浦だけでなく、冷静に申請を思いとどまった人は栗東にもいた。狭い業界内では受給した人や受給者が多い厩舎きゅうしゃの情報が出回り、疑心暗鬼が広がった。「本当に苦しんでいる人がいるのに、ふざけるな」。会員制交流サイト(SNS)上で実態を内部告発する関係者も現れ、新型コロナが生じさせた亀裂は、徐々に業界の外にも露見していった。 ▽火事場泥棒 今年2月16日、受給疑惑の一報が伝えられると、事態は急転した。翌日には野上浩太郎農相がJRAに厳正な対応を指示。遅くとも昨秋には疑惑を把握していたとみられるJRAも腰を上げ、日本調教師会に助手らを対象とした調査を指示。自らも騎手や調教師に対する調査を始めた。 ある助手は「トレーニングセンターの人は馬のことしか知らない。みんな税理士にだまされたのかも」と話すが、ベテラン調教師は「そうであっても給付金制度の意味を考えれば本人が責められても仕方がない」と言い切る。 競馬関係者を顧客に持つある税理士は、大阪市の税理士についてこう語った。「みんな困っているときに手数料を取って不適切な受給に加担するなんて憤りを感じる。税金だぞ。火事場泥棒のようなことをするな」 大阪市の男性税理士が日本中央競馬会の調教助手らに送付した案内文(関係者提供・画像の一部を加工しています)