天鐘(3月6日)

早春、日当たりのいい道端や小川沿いに顔を出す蕗(ふき)の薹(とう)。年を経るごとに健気(けなげ)に綻(ほころ)ぶ緑の蕾(つぼみ)が待ち遠しい。道端ではまだ見かけていないが、一足早く産直には顔を出した▼粒ぞろいの食べ頃で1パック150円。「し.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 早春、日当たりのいい道端や小川沿いに顔を出す蕗(ふき)の薹(とう)。年を経るごとに健気(けなげ)に綻(ほころ)ぶ緑の蕾(つぼみ)が待ち遠しい。道端ではまだ見かけていないが、一足早く産直には顔を出した▼粒ぞろいの食べ頃で1パック150円。「しめた」とカゴに入れると、後ろの客も「おっ、バッケ!」と次々にカゴへ。聞けば、暖かな日溜まりには既に顔を覗かせていて2月末ごろから出荷しているという▼〈ある時は蕗味噌(みそ)をなめ侘(わ)びしめる〉。盛岡市出身で東大工学部教授を勤める傍ら高浜虚子に師事、俳誌『ホトトギス』の同人に徹した山口青邨(せいそん)の句だ。ほろ苦い蕗味噌が忘れ難い古里の香りと味だったのだろう▼蕗の薹が手に入れば無論蕗味噌である。早速、熱々のご飯と共に味わった。生理学的に味覚は甘味、酸味、塩味、苦味、旨味に分けられるが、“ほろ苦さ”には味覚を超えた感性を揺さぶる不思議な力がある▼苦味を感じるのは毒性化合物の摂取を避けようとする拒絶反応のせいらしい。若い舌の多くは蕗の薹のような苦味を嫌がるが、加齢と共に馴染み、やがて苦手だったはずのほろ苦さの虜(とりこ)になってしまうから面白い▼早々に蕗味噌に会えた。昨年の今頃はコロナ禍で花見が自粛、東京五輪の延期が決まった。ワクチンに望みを託して1年。接種は不確定で見通せず、変異株の出現で緊急事態がなお続く。来年の今頃は…蕗味噌の苦さ加減が気に掛かる。