高齢者、奪われた投票権 コロナ禍、施設側も手探り

 富山県内の特養で知事選の不在者投票をする入所者=2020年10月(画像の一部を加工しています、同施設提供)
 富山県内の特養で知事選の不在者投票をする入所者=2020年10月(画像の一部を加工しています、同施設提供)
新型コロナウイルスの感染拡大は、施設で暮らす高齢者の投票行動にも影を落としている。外出自粛を求められる一方、郵便投票も認められず、結果的に「国民の基本的な権利」(識者)を奪われている入所者もいる。具体的な指針が示されない中で施設側も手探り。.....
有料会員に登録すれば記事全文をお読みになれます。デーリー東北のご購読者は無料で会員登録できます。
ログインの方はこちら
新規会員登録の方はこちら
お気に入り登録
週間記事ランキング
 新型コロナウイルスの感染拡大は、施設で暮らす高齢者の投票行動にも影を落としている。外出自粛を求められる一方、郵便投票も認められず、結果的に「国民の基本的な権利」(識者)を奪われている入所者もいる。具体的な指針が示されない中で施設側も手探り。秋までに実施される衆院選に向け「行政は投票方法の拡充を検討すべきだ」との意見も上がる。[br][br] 「入所者の投票権が保障されていないのはおかしい」。岐阜県郡上市の餌取英樹さん(64)が疑問を投げ掛ける。[br][br] 餌取さんの母親(89)は同市のグループホームで生活。感染拡大後の昨年3月の市議選と今年1月の知事選をいずれも棄権した。今まで投票を欠かしたことがなく「ぜひ投票したかった」と餌取さんに話したという。[br][br] 餌取さんは期日前投票であれば「3密」を避けられると考えたが、施設には「命を守るために自粛してほしい」とくぎを刺され、県選挙管理委員会に問い合わせても「判断は各施設に任せている」とつれない答えが返ってくるだけだった。「要介護5」に該当しないため、郵便投票も認められなかった。[br][br] 餌取さんは施設の考えに理解を示す一方、「投票所の感染対策も大切だが、投票所に行けない人にもっと目を向けるべきだ」と行政の対応を問題視する。 実際、行政の対応には課題が多い。[br][br] 選挙を所管する総務省は具体的な指針を各自治体に示しておらず、「関知していない」(岐阜県)などと各施設に対応を“丸投げ”する例も。1月に市議選が行われた北九州市はグループホームなどに「投票を希望する利用者に配慮を」と通知を出したが、レアケースとみられる。[br][br] 施設や病院が「不在者投票施設」に指定されれば、入所者は投票所に足を運ばずに票を投じることができる。しかし、指定を受けるには「入所者の定員がおおむね50人以上」などの要件をクリアしなければならず、施設側の負担も大きい。[br][br] 栃木県鹿沼市の特別養護老人ホーム(特養)「粟野荘」の横川恵施設長(55)は「介護現場は人手不足。私を含め、事務の職員7人が総動員で立ち会いに当たる」。富山県内のある特養では、選挙公報の到着後に投票日を決めるため、郵送期限ぎりぎりまで作業に追われることも多いという。[br][br] 淑徳大の結城康博教授(社会福祉学)は「投票は基本的権利。行政は、感染対策を講じた上で入所者を投票所に連れて行くよう各施設を指導すべきだ」と強調。その上で郵便投票の対象を広げたり、車に投票箱を載せて巡回する「移動投票所」を活用したりすることを提案した。 富山県内の特養で知事選の不在者投票をする入所者=2020年10月(画像の一部を加工しています、同施設提供)