10年前、その道路はいつ完成するか全く見通せていなかった。地元自治体や住民が早期整備を求める一方、一部からは「完成してもタヌキしか通らない」と冷やかされ、工事は立ち遅れていた。[br][br] しかし、2011年3月の東日本大震災が状況を一変させた。当時、既に開通していた一部区間は津波からの避難場所となり、緊急輸送路や寸断された幹線道路の代替路として機能を発揮した。[br][br] 重要性を認識した国は、八戸市と仙台市間で計画があった三つの高速道路を1本でつなぎ、「復興道路」と位置付け整備する方針を決定。沿岸部と内陸部をつなぐ「復興支援道路」と合わせ、事業は異例のスピードで進行した。[br][br] 総延長359キロの高規格幹線道路「三陸沿岸道路」が震災から10年の節目となる21年、いよいよ全線開通する。完成後、八戸―仙台の沿岸ルートの移動時間は、約3時間20分短縮され、人や物の流れが拡大するとみられている。北奥羽地方の沿岸部では既に全線開通後を見据え、物流事業者などを中心にさまざまな動きもある。地域経済の活性化にどのような効果をもたらすのか熱い視線が注がれている。[br][br] ◆ ◇[br][br] 久慈市夏井町の三陸沿岸道路久慈インターチェンジ(IC)近くにある「東北王子運送」の営業所。貨物運送大手の福山通運(広島県福山市)が全線開通を見据えて16年に開設したこの営業所では、午後10時ごろになると、大型トラックが次々と仙台市に向けて出発する。[br][br] 現在、トラックはほとんどが1時間以上をかけて久慈から北西部にある八戸自動車道九戸ICに向かい、そこから高速道路で仙台を目指す。首都圏などが目的地の場合も同様だ。[br][br] しかし、三陸沿岸道路が開通すると、八戸自動車道や東北自動車道を利用せずに、久慈ICから一気に南下できるようになる。さらに三陸沿岸道路は基本的に料金が無料であることから、これまでかかっていた仙台までの片道約1万円の高速料金が必要なくなり、コストダウンも図られる。[br][br] 同社は、全線開通後、ほぼ全てのルートを同道路を活用する形に切り替える方針。大きな商機と捉えて新たな受注も見込み、大型トラックを6台から10台に増やした。[br][br] 奈良聖一営業所長(48)は「開通後は、運送業界内でも価格競争が始まるはず。そうなれば、おのずと三陸沿岸道路を使う流れが強まるのではないか」と、他社に先駆けて準備を進める意義を強調する。[br][br] ◇ ◆[br][br] 八戸市内のある食品製造会社は、三陸沿岸道路の開通が、人材確保の一助になることを期待している。[br][br] 同道路を活用した場合、八戸市と久慈市間の車での移動時間は国道45号を通るよりも25分短縮され40分になる。両市は共に通勤圏となり、時間的距離をアピールしながら採用活用を行うことが可能となる。[br][br] 人事担当者は「八戸で働く人を久慈から採用するなど、地元以外からも多くの人材を確保できる可能性が高まるだろう」と指摘。人材交流もこれまで以上に活発化するとの見方を示し、「直接的な効果のほかにもさまざま波及効果が現れ、地域が一層、元気になっていくのでは」と推測する。