天鐘(2月26日)

天が落ちてこないか、地は崩れぬか―。古代中国・杞の国の人が、そんなあり得ないことを思って、夜も眠れなかった。無用の心配を意味する「杞憂」の語源となった故事である▼天は落ちてこないが、時に物騒な物が降ってくる。米国で起きた旅客機の部品落下事故.....
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 天が落ちてこないか、地は崩れぬか―。古代中国・杞の国の人が、そんなあり得ないことを思って、夜も眠れなかった。無用の心配を意味する「杞憂」の語源となった故事である▼天は落ちてこないが、時に物騒な物が降ってくる。米国で起きた旅客機の部品落下事故である。民家の庭先に突然、巨大なリングが転がってくる恐怖。近くの住民は肝を冷やしたに違いない▼テレビの映像は衝撃的だった。乗客のカメラは、炎を上げて燃えるエンジンをとらえている。空の上での、まさにあり得ない状況に覚悟を決めた人もいただろう。地上も含め、けが人がなかったのは奇跡に近いかもしれない▼この世で最も安全な乗り物は飛行機だとも言われる。米国での分析では、航空機事故で死亡する確率は0・0009%だそうだ。一方で、ひとたび事故が起きれば大惨事も招く。御巣鷹の惨劇は今も記憶から消えない▼人間が作り出したものに、もはや安全神話はない。そのことは、あの原発事故で嫌と言うほど胸に刻んだはずだ。核を閉じ込める容器しかり、空飛ぶ鉄の塊しかり。“あり得ぬはず”の事態に陥ったとき、人は無力だ▼先日、深夜の東北を最大震度6強が襲った。そして今回の空の事故である。巡り来る大震災の節目を前にして、改めて人間たちに届けられた、天と地からの警鐘に思えて仕方がない。忘れていないか、慢心はないか―と。