天鐘(2月17日)

東京・田園調布の自宅マンションで料理教室を開いている鈴木登紀子さんを訪ねたのは30数年前。還暦過ぎだったが溢れる笑顔が若々しく、「ばぁば」と呼ばれる前だった▼作家の三浦哲郎さんが各界で活躍する青森県出身者と古里を語る本紙の連載企画『ふれあい.....
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 東京・田園調布の自宅マンションで料理教室を開いている鈴木登紀子さんを訪ねたのは30数年前。還暦過ぎだったが溢れる笑顔が若々しく、「ばぁば」と呼ばれる前だった▼作家の三浦哲郎さんが各界で活躍する青森県出身者と古里を語る本紙の連載企画『ふれあい散歩道』の取材で、料理教室にお邪魔した。特別教室のお歴々は一流会社の社長夫人やお嬢様らセレブばかりだった▼厨房(ちゅうぼう)は調理の熱とご婦人達の熱気で、三浦さんも汗を拭いながらの取材。鈴木さんは旧制の八戸高女、6歳下の三浦さんは八戸中でバスケットボール部の選手で、卒業後にも大会に向け一緒に練習をした仲だった▼「あなたは美青年だったわ」「豊かな感じがする小野沢選手(旧姓)に密かに憧れていた」と“告白”。鈴木さんは「ニコニコしているけど、夜は両拳(こぶし)を握ってウーッと怒っているのよ」と爆笑を誘っていた▼93歳の著書『遺言』の書き出しは「十分に生きた。でも、もっとおいしいものを食べたいわ」「先は短いから今、食べとかなきゃ」とも。人生の隠し味に「ありがとう」の感謝と「ほんの些細(ささい)な気遣い」を挙げた▼食文化を支え続けた鈴木さんは昨年12月28日、肝臓癌で逝った。96歳。四十九日も過ぎ、天国で待つ夫の酒の肴(さかな)に腕を振るっているのでは。「老いを嘆かず、今できることを」と晩年もテレビ番組を続けた。ばぁば、お疲れ様でした。