天鐘(1月10日)

誰が作ったか、ラジオで聞いた素人によるユニークな川柳が忘れられない。〈ステーキの横のポテトがうまかった〉。お題は「脇役」。クスリと笑い、その後、小さくうなずいた▼映画の大部屋俳優といえば脇役の、そのまた脇だ。福本清三さんも、その中の一人。火.....
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 誰が作ったか、ラジオで聞いた素人によるユニークな川柳が忘れられない。〈ステーキの横のポテトがうまかった〉。お題は「脇役」。クスリと笑い、その後、小さくうなずいた▼映画の大部屋俳優といえば脇役の、そのまた脇だ。福本清三さんも、その中の一人。火に飛び込み、崖から落ち、死体となって川に浮く。食っていくために何でもやった。でも字幕に名が出ることはない▼ある日、萬屋錦之介さんに「斬られ方」を褒められた。死ぬのも立派な芝居だと胸に刻む。努力で考え出した、のけぞって倒れる“最期”が芸術的だと評判に。出番は増え、やがて「5万回斬られた男」の異名を取る▼主役を「スターさん」と呼ぶ。自分はあくまで、引き立て役だと分かっている。「私の倒れ方で、スターさんの目立ち方が違ってきます。目立たなければ、絵になりません」。いつも飾らぬ自然体だった▼定年前にトム・クルーズと共演、見事な死に様(ざま)を演じた。夢のような仕事にも「神様からのご褒美」と、小さく照れた。斬られ役一筋の人生を、著書の中で「底辺の人間」と笑い飛ばす。そんな福本さんの訃報である▼世の中、主役など一握り。人は、大方が脇役だ。だからこそ、この人の生き方に心を寄せてしまう。「映画は脇役がいないとできません。通行人も、死体も」(福本さん)。絶品なポテトの味が重なる、一途(いちず)な役者人生だった。