今年の春闘は、新型コロナウイルスの感染拡大で、厳しい労使交渉が予想される。産業界はコロナの影響を広く受けたが、余力がある企業は可能な限り賃上げに努力すべきだ。所得の増加は個人消費を刺激し、日本経済にもプラスに働く。[br][br] 春闘はこれから本格化し3月にヤマ場を迎える。コロナが国内で拡大し始めた昨春以降、解雇や雇い止めが増加し雇用環境は厳しさを増している。大手企業の今冬の賞与・一時金(ボーナス)も経団連調査によると8年ぶりに減少するなど賃上げに向けた環境は良くない。[br][br] コロナ禍は、同一業種でも業績にばらつきを生んだ。外出自粛やテレワークの普及で、流通業界でも百貨店には逆風だったが、食品スーパーには追い風となった。過去の不況時には見られなかったことだ。[br][br] 連合は、昨年の春闘同様、基本給を引き上げるベースアップ(ベア)を2%程度、年齢や勤続年数に応じて増える定期昇給を2%、計4%程度の賃上げを継続要求する方針を打ち出した。しかし各労組の対応は必ずしも横並びではない。[br][br] 金属労協は月3千円以上の要求を決めたものの、電機メーカーで構成する傘下の電機連合は独自の判断で2千円以上の要求に引き下げた。トヨタ自動車グループの労組で構成する全トヨタ労働組合連合会は、ベア要求については各労組の判断とすることとした。経営環境が会社によって大きく違うからだ。現実的な対応と言えよう。[br][br] 政府は、企業が厳しい状況にあることは理解しながらも、デフレへの後戻りを懸念し、経団連に「経済の好循環を進めるため」として賃上げの流れ継続を要請した。[br][br] 雇用の維持と経営の立て直しで、賃上げ余力がない企業が多いのは確かだ。希望退職の募集に踏み切る上場企業も増加している。連合が昨年11月中下旬に実施した労働者に対するアンケートでは、コロナで雇用不安を抱えている人が約58%を占めた。これは感染拡大の第3波初期時点の調査だ。その後の感染者急増で、雇用不安はさらに高まっているとみられる。[br][br] 感染収束が見えず、首都圏に2回目の緊急事態宣言が発令されることになり、多くの企業が守りに入るのは仕方ない。だが追い風を受けている企業は、従業員に利益を還元することが大事だ。コロナとは長い闘いになる。労組も中長期の視点に立ち、賃金面だけでなく、働き方改革などでも経営者側と十分な議論を重ねることが求められる。