天鐘(12月30日)

バリトン歌手が毅然(きぜん)と立ち上がり、「おお友よ、このような旋律ではない!」「歓喜よ!」と歌い出すべートーベンの交響曲『第9』。1年を締め括(くく)る年末の風物詩だが、今年はコロナにその座を奪われてしまった▼1789年、絶対王政の打倒に.....
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 バリトン歌手が毅然(きぜん)と立ち上がり、「おお友よ、このような旋律ではない!」「歓喜よ!」と歌い出すべートーベンの交響曲『第9』。1年を締め括(くく)る年末の風物詩だが、今年はコロナにその座を奪われてしまった▼1789年、絶対王政の打倒に民衆が蜂起したフランス革命。闘いに詩人シラーが捧げた『歓喜に寄す』に心酔した彼は、詩を歌い上げる合唱を交響曲に織り込んだ▼4楽章で独唱に続き「歓喜よ!」の合唱が始まると会場は高揚感に包まれ一つに。困難な壁を乗り越え、自由を勝ち取る。天才が着想から1824年の初演まで30年余を費やして完成させた「至高の芸術」である▼54歳の彼は難聴の悪化で聴力を失い、割れんばかりの拍手喝采に最初は気付かなかった。今でもこれほど愛されているのは愛と自由、団結を歌う言葉と旋律の共鳴なのだろう。まさに魂を揺さぶる音楽の力だ▼1989年のベルリンの壁崩壊では「歓喜」を「自由」に変えて解放を喜び合い、98年の長野冬季五輪では世界5大陸の合唱が同時に衛星中継された。欧州連合(EU)の統一を象徴する『欧州の歌』も『第9』▼だが、政府は中学の合唱でクラスターが発生したことで“マスク合唱”を指導、恒例の『第9』も次々自粛に。人と人を結ぶ合唱がコロナの分断に屈した格好だ。世界が歓喜に震える『第9』を挙(こぞ)って歌える日が一刻も早く来てほしい。