政府の男女共同参画基本計画案から当初書かれていた「選択的夫婦別姓」の文言が削除された。自民党内の反対派の主張が考慮されたためだ。結婚後の改姓を定めている民法規定は、不平等を生じさせていると指摘されていた。その解決策が骨抜きになりかねない事態だ。議論を後退させてはならない。[br][br] 政府は今月初め、今後5年間の女性政策をまとめた基本計画案を自民党の部会に示した。[br][br] 案は「婚姻前の氏を引き続き使えないことが生活の支障になっているとの声がある」として▽実家の姓が絶えることを心配して結婚に踏み切れず、少子化の一因になっている▽論文など仕事の実績が引き継がれない―と例示し、国会での速やかな議論を強く期待し、政府も必要な対応を進めると明記していた。[br][br] 選択的夫婦別姓はその解決策だったが、反対派は「家族の一体感が損なわれる」「夫婦別姓でないと困るという意見はエビデンス(根拠)がしっかりしていない」と批判。自民党の会合で了承された修正案は結局、その言い分が通った形になった。[br][br] 夫婦別姓に関する訴訟で最高裁大法廷は2015年、「家族が同じ姓を名乗るのは日本社会に定着している」として民法の規定を合憲と判断している。だが、大法廷の裁判官15人のうち5人は「違憲」としていた。[br][br] この問題については、当初案にある事例の根拠をまず考えなければならない。17年の内閣府の世論調査では、選択的夫婦別姓制度導入に賛成が42・5%、反対が29・3%だった。[br][br] 日本社会に定着というが、江戸時代までは庶民に氏を名乗ることが許されていなかった。明治時代の初めは「夫婦別氏制」とされ、明治31年施行の民法で初めて夫婦同姓と定められ、戦後の民法改正でも引き継がれた経緯がある。[br][br] 海外の事例を見ても、夫婦同姓を義務化しているのは日本ぐらいである。どちらの姓でもいい選択制を採用している国が多い。外国では「家族の一体感」が損なわれている、と言えるであろうか。[br][br] 東京で3組の夫婦が起こしている夫婦別姓訴訟が最高裁の大法廷に回付されている。15人の裁判官全員が審理することになり、再び憲法判断する可能性が出てきている。[br][br] 前回は5人が違憲の意見だったが、8人になることも考えられる。だが、裁判以前に国会は議論を進めなければならない。立法府には有権者の意見を反映させて制度を改革し、不平等を解消する義務がある。