【連載・世界のJOMONへ】第5部(2)ファン獲得

縄文遺跡群では現在も発掘調査が続けられている。三内丸山遺跡では、調査の様子が発掘調査委員に定期的に公開されている=9月、三内丸山遺跡
縄文遺跡群では現在も発掘調査が続けられている。三内丸山遺跡では、調査の様子が発掘調査委員に定期的に公開されている=9月、三内丸山遺跡
人類にとって貴重な遺産を保護するために設けられた「世界遺産」。現在は登録による自治体への経済効果や地域活性化も期待されるようになり、設立当初より多様な価値を持ち始めている。「北海道・北東北の縄文遺跡群」の場合、構成資産17遺跡は海をまたいだ.....
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 人類にとって貴重な遺産を保護するために設けられた「世界遺産」。現在は登録による自治体への経済効果や地域活性化も期待されるようになり、設立当初より多様な価値を持ち始めている。「北海道・北東北の縄文遺跡群」の場合、構成資産17遺跡は海をまたいだ4道県に点在。各市町村の中心部から遠く、足を運びにくい遺跡もある。国内外から多くの“縄文ファン”を獲得し、遺跡を繰り返し訪れてもらうために各自治体の工夫は不可欠だ。[br][br] 縄文遺跡群と同じく複数の自治体に関連資産が点在しているのが、2018年登録の「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」(長崎・熊本)。離島にある集落跡など12の構成資産からなる。長崎県世界遺産課によると、登録後1年間の来訪者数は、登録前に比べ約1・6倍に増加。今年は新型コロナウイルスの影響で落ち込んでいるものの、2月までは前年を上回る数で推移していた。[br][br] 構成資産がある離島には無人島も含まれており、地元の自治体は島と島を結ぶ海上タクシーを運行。資産の近くに設けたガイダンス施設で地元の土産品を販売するなど、充実を図っている。それでも、同課の村山拓男係長は「資産が海をまたぐため、アクセスが難しい。交通網の整備は今でも課題だ」と話す。[br][br] ただ、交通網や施設を整備しても、資産そのものに魅力がなければ人は訪れない。「世界遺産に登録されたからといって、その遺跡が面白くなるわけではない」と説明するのは、文化経済学が専門の澤村明新潟大経済学部教授。15年に国内の世界遺産を対象として、世界遺産登録と観光客数の相関関係を調査。登録をきっかけに観光客数が増えたと考えられる遺跡の多くが、10年後には登録前の数字に戻っていた。[br][br] 澤村教授は「(観光の視点で見れば)世界遺産というメッキは10年経つと剝がれ、観光地に戻る」と指摘。「自分たちの大切なものが世界遺産になったという気持ちを忘れず、どう魅力を高めるか考えるべきだ」と強調する。[br][br] 青森県世界文化遺産登録推進室によると、遺跡や展示施設などへの入場者数から積算した縄文遺跡群全体の来訪者数は年間40万~45万人。うち4分の3は三内丸山遺跡(青森市)の来訪者で、是川石器時代遺跡(八戸市)、御所野遺跡(一戸町)と続く。遺跡ごとに知名度に差があり、全国的に有名な三内丸山に来客が集中しているのが現状だ。[br][br] 県は周遊を促そうと、複数の遺跡を巡ると県産品が当たるスタンプラリーを企画。八戸や弘前など各エリアごとの周遊ガイドも作成している。各遺跡のガイダンス施設や駐車場の整備も進む。[br][br] 同室の岡田康博室長は「遺跡で新たな発見など動きがないと人は来ない。縄文ファンになってもらうためには、さらにオプションを付けないといけない」と強調。リピーターを獲得するための方法として、新たな発掘調査や研究成果の情報発信を提案する。「遺跡にはまだ謎が残されていて、現在の技術や研究でなければ分からないこともたくさんある」。遺跡の謎を“発掘”し続けることも、誘客の切り口になりそうだ。縄文遺跡群では現在も発掘調査が続けられている。三内丸山遺跡では、調査の様子が発掘調査委員に定期的に公開されている=9月、三内丸山遺跡