天鐘(12月15日)

思想家の柳宗悦(なやぎむねよし)は日常で使う道具の中に美を見いだした。その美しさは、人の手が作るからこそと言っている。機械とは違い、手の奥には心が控える。熱き心が人の手を動かすと、柳は説く▼盤上に打ち込む渾身(こんしん)の一手。奥に控える心.....
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 思想家の柳宗悦(なやぎむねよし)は日常で使う道具の中に美を見いだした。その美しさは、人の手が作るからこそと言っている。機械とは違い、手の奥には心が控える。熱き心が人の手を動かすと、柳は説く▼盤上に打ち込む渾身(こんしん)の一手。奥に控える心の中では勝負師の情熱が燃えている。昨年、将棋のアマチュア名人に輝いた中川慧梧(けいご)さん(八戸市出身)。一途(いちず)に歩んだ道で大輪を咲かせた▼才能に恵まれ、周囲の期待も背負ってきた。勢いに乗る学生時代、苦労を重ねた社会人時代。“北奥羽の悲願”でもあった称号をついに手にして、涙したと聞く。無限の可能性こそ将棋の魅力。挑戦し続けることの大切さを教えてくれた▼この人たちの手指は、まさに「美」を織り上げる。つながる心に宿るのは、伝統を継ぐ者の信念だろう。南部裂織保存会(小林輝子会長)は、暮らしに素朴な彩りを添えて45年を歩む▼使い古しの布から生まれる新たな命。いにしえの技術を、初代会長・故菅野暎子さんが蘇(よみがえ)らせた。昔の「ぼろ織り」は既に芸術。地で行く「温故知新」に、全国も注目する。「眠れる布にもう一度息吹を」は、集える会員たちの合言葉だ▼力強い指先で、美しく動く手で、ふるさとを元気にしてくれる人たち。今年のデーリー東北賞が今日、中川さんと同会に贈られる。わが郷土に宝あり。同類なる“手の仕事”の者として、背筋を伸ばして拍手を送る。