2021年度の与党税制改正大綱は、小粒の減税一色となった。減税総額は600億円規模を見込む。コロナ禍支援として税制面からも家計や企業の負担軽減を図る。50年をめどとする脱炭素化や政府のデジタル化推進を税制面で後押しする企業減税も目立つ。[br][br] コロナ禍支援で焦点だった固定資産税は、コロナ禍前に決定した評価額に基づき上がる予定だった、商業地、住宅地、農地の納税額を据え置く。住宅ローン減税は通常より長い13年受けられる特例措置の入居条件を、20年末から2年延長する。苦境にある航空業界には航空機燃料税を1年限りで半減する。[br][br] 温暖化対策では脱炭素化関連の投資額の最大10%を法人税から控除。エコカー減税は、燃費基準の達成度に応じ自動車重量税を減免する措置を2年延長するなどだ。デジタル化では、クラウドサービスなどで外部企業と連携する投資に最大5%を控除する内容だ。[br][br] 未曽有の苦境で体力が低下した家計や企業に配慮するのは、政府の当然の役割だ。脱炭素化やデジタル化を優遇税制で誘導することも有効に違いない。[br][br] しかし、政府には財政の持続力を維持する責任もある。歳出増と負担軽減の税財政支援は国民に寄り添う効果をもたらすが、それは、歳出入の差額(借金)が拡大する代償も伴う。コロナ禍が直撃した20年度は、税収が50兆円台に急減するのに対し歳出がかさみ、借金(国債発行額)は100兆円超に膨らむのは確実だ。そのつけを回されるのは、結局国民だ。痛みに触れず小手先でつじつまを合わせるだけの年次税制改正は限界だ。[br][br] 感染拡大に対する財政支援で国庫が逼迫(ひっぱく)しているのは世界共通の問題だ。特に米国は、20会計年度の財政赤字がリーマン・ショック時の2倍以上の史上最悪になった。バイデン次期大統領は財政赤字と所得格差の双方を是正するため富裕層への増税を明言した。日本も近くまとまる21年度政府予算案は100兆円超に膨らむ見通しなのに、頼みとする歳入が減税先行では、財政に対する責任が果たせなくなる。長期展望に立つ税制の抜本改革を視野に入れる時だ。[br][br] 1980、90年代に米国にならって緩和した所得税の累進税率や金融などの資産課税は強化の余地がある。政治や業界が絡んだ租税特別措置を減らし課税ベースを拡大する方針も道半ばだ。所得格差是正や公正性の担保を財源確保につなげる大局的改革から、これ以上逃げるわけにはいかない。