二戸市の漆搔(か)き技術を含む「伝統建築工匠の技 木造建造物を受け継ぐための伝承技術」が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しとなった。関係者は認知度アップに期待するが、原木の確保や職人育成といった課題もある。無形文化遺産登録を機に、漆搔きという地域資源を支える民間の動きが、さらに活発化することを願う。[br] 漆は奈良・法隆寺に代表される伝統的な建築文化を支え、漆器は人々の暮らしを彩ってきた。二戸市の日本うるし搔き技術保存会を含む全国14団体が、国から保存団体として認定されている。[br] 漆文化が根付く同市の「浄法寺漆」は、国産の約7割を担う。戦後は安価な外国産に押されて在庫を抱えていたが、2015年に文化庁が国宝などの文化財の修繕に原則として国産を使用するよう通知したことで、一気に需要が高まった。[br] ただ、急増する需要に供給は追いついていないのが現状だ。現在、市内で樹液を採取することができる漆の木は約14万2千本。目標とする年間生産量を達成するためには約18万本が必要だという。[br] 漆の木が樹液を採取できるまでに成長するには、約15年の長い時間を要する。売れないために木を植えられなかった、かつての“冬の時代のツケ”が今になって影響を及ぼしている。[br] これに対応するため、市は民間企業・団体と協力して植栽や保全管理に取り組む「漆の林づくりパートナー協定」の締結を進めている。これまで7企業・団体と協定を結び、新たに計900本を植えた。[br] 無形遺産登録によって漆搔きに注目が集まれば、協定を結んだ民間企業のイメージアップにもつながる。締結先が二戸地域にとどまらず、広域に拡大することを期待したい。[br] 観光資源化でも大きな可能性を秘める。同じく無形遺産に登録された八戸三社大祭の状況を見ても、観光客の増加が見込まれる。[br] 二戸市浄法寺町には漆搔き作業の現場を見学でき、漆器を製造販売する「滴生舎(てきせいしゃ)」がある。八戸市の是川縄文遺跡では漆製品が出土しており、圏域にストーリー性を持たせれば新たな魅力になろう。[br] 新型コロナウイルスの感染拡大によって、インバウンド(訪日外国人客)を含む観光需要は冷え込んでいるが、好機と捉えることもできる。時間をかけて戦略を練り上げ、漆搔きを広域観光の目玉に成長させたい。