2002年12月の東北新幹線八戸開業は、北東北有数の産業都市・八戸が一層の経済成長を遂げるターニングポイントとなった。あれから18年。東北新幹線の終着駅だった八戸駅は全線開業で途中駅に変わり、16年3月の新函館北斗延伸で新幹線は北海道へ渡った。[br][br] 新幹線効果を取り込んだまちづくりの成功事例とされる八戸市だが、全線開業前は利用客が減る懸念がくすぶっていた。ただ、10年たった今も八戸駅の利用は堅調を維持。JR東日本青森支店によると、同駅からの乗車人数は12年度以降、1日当たり4500人前後で安定している。青森県内の新幹線駅では最多だ。[br][br] 旧新幹線八戸駅開業事業実行委員会のメンバーだった、八戸商工会議所の河村忠夫会頭は「全線開業で八戸の知名度はさらに上がった。新幹線でつながる函館方面から来る外国人観光客も多い」との認識を示す。[br][br] 八戸市の商工・観光関係者は、新青森延伸を八戸駅の“第二の開業”と位置付けて経済波及効果の創出を図った。市内の宿泊客数は増加傾向にあり、全線開業後にオープンした大手ビジネスホテルも存在する。[br][br] 八戸ホテル協議会の集計を基に、年間の宿泊客数を02年と比べると、全線開業翌年の11年は25%増、直近19年は42%増に伸びた。宿泊施設の高稼働が続く背景には、ビジネス目的の来訪が多い都市の特性がある。[br][br] 東京―八戸を3時間弱で結ぶ新幹線は、市の企業誘致を促進させた。現在の誘致認定121件のうち、02年度以降が66件で全体の半数以上を占めている。全線開業後の11~19年度は年間4~6件の水準で推移し、特にIT・テレマーケティング企業の開設が相次いだ。[br][br] 八戸に進出したIT系企業の関係者は「東京から3時間で着く八戸は地方拠点の場所として条件がいい」と指摘。新幹線で八戸―新青森が23分で結ばれた利点も挙げ、「県庁所在地の青森市とも近くなり、八戸は利便性が高まった」と話す。[br][br] こうした企業や工場の集積がビジネス客の増加につながり、宿泊施設の好調な稼働を支えてきた。観光面では、館鼻岸壁朝市や中心街の「横丁文化」を有力な地域資源として磨き上げ、“朝夜の観光”を促して宿泊需要を生み出している。[br][br] 地元企業にとっては、全線開業がビジネス拡大の追い風にもなった。人気商品のスイーツ「朝の八甲田」の販路を広げた「アルパジョン」(八戸市)の松坂和治社長は「全線開業を機に青森ブランドに成長し、その後はジャパンブランドとして輸出も伸ばした」と説明する。[br][br] 一方、地域の経済や産業力は新幹線の恩恵で浮揚したが、全国的に高速交通インフラは進展しており、今後は都市間競争に勝ち抜く成長戦略の構築が急務だ。[br][br] 新たな発展の鍵は、現在整備中の八戸と仙台市を結ぶ「三陸沿岸道路」(復興道路)の全線開通にある。河村会頭は「これからは新幹線と復興道路の連動が重要。交通の利便性が向上し、観光誘客や企業誘致に期待が持てる」とし、八戸の拠点性を生かした地域振興の重要性を強調する。