記帳者の長蛇の列、盛大な祝宴…。どれも見られず、寂しい儀式だった。秋篠宮さまの「立皇嗣の礼」。新型コロナウイルス感染防止のためとはいえ、皇位継承の在り方という重要課題の解決を先送りした安倍政権の置き土産の側面もある。菅政権はその先例を繰り返してはならない。[br][br] 国事行為「立皇嗣宣明の儀」では秋篠宮が皇位継承順1位の皇嗣になったことを天皇陛下が内外に宣言。この後、天皇、皇后両陛下に皇嗣が感謝を伝える国事行為「朝見の儀」が行われ、上皇さま退位に始まった代替わり儀式が終了した。[br][br] 現憲法下初めての皇嗣。従来の皇太子は主に在位中の天皇の息子だったのに代わり、天皇の弟が後継者だと表明することで、当面の皇位継承を確実にした意味合いがある。[br][br] しかし皇位継承を定めた皇室典範の改正論議は、女性の天皇や母方が血筋の女系の天皇を容認する2005年の有識者会議報告書以降止まったままだ。一連の儀式は終わっても新しい皇室像は一向に明確化されない。課題解決の貴重な機会が失われつつあるようで、心配になる。[br][br] 立皇嗣の礼では外国人の招待が外交団長1人だけで内向きだった。皇室にとって外国要人との懇親や海外訪問が大きな意味を持ち、海外に古式尊重の姿を見せる大切さもあることを忘れている。[br][br] 切迫した課題としては皇位継承の見直しがある。皇室典範は父方が天皇の血筋である男系男子が皇位を継承すると定め、女性・女系は認めない。だが、現在の有資格者は秋篠宮さまとその長男悠仁さま、上皇さまの弟常陸宮さまの3人しかいない。いずれは悠仁さまを皇太子にという声が出るかもしれない。その時はどうするのだろうか。[br][br] 女性・女系の天皇も考えなければ天皇制自体が崩れかねない。女性皇族は一般男性と結婚すると皇室を離れなければならないが、天皇家を支える女性宮家も必要性が高まっているのではないか。17年の天皇退位特例法は付帯決議で安定的な皇位継承策に触れ、法施行後速やかに検討するよう求めた。安倍政権のように重要課題を先送りすると天皇制にとって取り返しのつかない事態になりかねない。[br][br] 政権交代に際し、皇位継承などの現行制度見直しを重要課題に挙げた意見は少なかった。しかし皇室にとって伝統継承と同様に将来に備えた不断の変革は欠かせない。菅首相は立皇嗣の礼が終了後、決議の趣旨を尊重して対応する考えを国会で述べた。速やかな実行を求めたい。