【超高齢社会の先へ】第4部 社会からの孤立(5・完)

「今の生活を楽しまないとね」。亡き妻との旅行の思い出が詰まった写真を眺める男性。生きがいを持ちながら一人暮らしを続ける=10月1日、八戸市  
「今の生活を楽しまないとね」。亡き妻との旅行の思い出が詰まった写真を眺める男性。生きがいを持ちながら一人暮らしを続ける=10月1日、八戸市  
内閣府の「2020年高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者のうち、単身世帯は2015年時点で592万人で、今後も増加し続けると予想されている。配偶者との離別や死別、子どもの別居がきっかけになっているケースが多く、食事の偏りや外出機会の減.....
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 内閣府の「2020年高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者のうち、単身世帯は2015年時点で592万人で、今後も増加し続けると予想されている。配偶者との離別や死別、子どもの別居がきっかけになっているケースが多く、食事の偏りや外出機会の減少による生活の質の低下、病気や認知症の進行など懸念は尽きない。高齢者の1人暮らしの現状とは―。八戸市で1人暮らしをする男性(87)を取材した。[br][br]    ◇   ◇[br] 「妻であると同時に尊敬する人でもあった」。市内に暮らす男性は6年前、長年連れ添った妻をみとった。認知症が進行し、10年に及ぶ介護の末の別れだった。子どもには恵まれず、妻との死別を契機に1人暮らしが始まった。[br][br] 1人暮らしをするに当たり、惰性的な生活にならないように自分なりのルールを決めている。日々の健康管理はもちろんのこと、家計簿を付けるなどして金銭管理を徹底。住みよい住居環境を整え、特殊詐欺などのトラブルに巻き込まれないように危機管理意識を持つなど、心身共に充実した生活を心掛けている。「何よりも大事にするのは『1人を楽しむ気持ち』を忘れないことだよ」と笑う。[br][br] 最近はスマートフォンを購入し、友人や知人とはLINE(ライン)で交流しているほか、通信会社などが開催する「スマホ教室」にも通っている。スマホだけでなく、パソコン操作もお手の物。毎日の日記も欠かさず付けている。「好奇心を持つことが生活のモットー。脳を生き生きとさせる努力をしなくちゃね」。飽くなき向上心も生活の支えとなっている。[br][br]   ◇   ◇[br] 男性は東京で生まれ育った。中学生の時、空襲で家を焼かれ、家族で逃げ惑ったつらい経験が脳裏に焼き付いている。「今までも、この先もどんな困難にも立ち向かえる自信はあるよ」と話す声は力強い。八戸に移り住んでからは青森県内で教員として勤務。地域では町内会長も務めるなどさまざまな活動に参加した。[br][br] 写真撮影が趣味で、妻が元気だった頃は一緒にヨーロッパを中心に旅行を楽しんでいたが、妻亡き後は大好きだった旅行に行くこともなくなってしまった。「1人っきりの旅行はなんだか味気なくてね」とぽつりとつぶやく。[br][br] 最愛の人を亡くした後も自分の人生は続く。「最初の頃は寂しい気持ちもあったよ。今はその寂しさを超越して、『自分の生活を楽しまないと』という気持ちになっているかな」[br][br]   ◇   ◇[br] 食事や買い物など、身の回りのことは誰にも頼らずに自分一人でこなしている。淡々と生活を送るだけでなく、全国にいる友人と手紙や名産品のやりとりをするなどの交流も楽しんでいる。「認知症の人と家族の会青森県支部」に参加し、自身の介護経験について県内にとどまらず全国で講演を行うなどの活動にも精力的に取り組んできた。[br][br] 「生活していく上で差し迫った不安はない」ときっぱり。「何においても体が資本。健康だけは十分に注意しているよ」。これからも自分らしく生きがいを持って生活を送っていく。「今の生活を楽しまないとね」。亡き妻との旅行の思い出が詰まった写真を眺める男性。生きがいを持ちながら一人暮らしを続ける=10月1日、八戸市