菅義偉首相が、就任後初となる衆参両院の予算委員会の質疑に臨んだ。焦点の日本学術会議の会員任命拒否問題で、立憲民主党と共産党が「違法だ」と追及したのに対し、首相は用意された答弁資料を棒読みしながら、拒否理由の説明を拒み続けた。[br][br] 先週の衆参本会議での代表質問の再現に終始しており、一問一答式の予算委の真価は発揮できていない。押し問答の繰り返しでは、政治不信を招くばかりだ。多くの国民が今回の人事に疑問を持っており、首相には猛省を促したい。[br][br] 今国会は新型コロナウイルス感染防止対策と経済再生の両立、2050年の脱炭素社会の実現、米大統領選後の日本外交など重要課題に直面する中で開かれている。[br][br] 任命拒否が学問の自由に関わる重大な問題であることは間違いないが、予算委の審議時間の多くが学術会議問題に割かれ、与野党が掘り下げるべき内外の懸案を巡る議論が薄味に終わっているのは残念だ。[br][br] その責任が、説明責任を果たそうとしない首相にあることは言うまでもない。国会論戦を実りあるものにするためにも任命拒否を撤回し、早期に混乱を収拾すべきだ。[br][br] 首相は任命拒否した6人のうち1人以外は名前も知らず、報告を杉田和博官房副長官から受けたと認めた。国会で杉田氏に直接問いただす必要があるだろう。自民、公明の与党は、新型コロナワクチン関連の予防接種法改正案や、英国との経済連携協定(EPA)承認案など重要議案の審議を促進するためにも、杉田氏の国会招致に応じるべきだ。[br][br] 首相は官房長官時代から「学術会議自体に懸念を持っていた」と述べ、さらに「既得権益、前例主義から脱却させてより良いものにしたい」と学術会議の組織改革に切り込む姿勢を表明した。人事介入批判をかわすために、学術会議の行政改革を持ち出したようにも映る。学術会議の独立性、自律性を守るという原点に立脚した見直し論となるよう注視していかなければならない。[br][br] 首相は丁々発止の受け答えが苦手なことが、予算委で改めて浮き彫りになった。1年以内にある次期衆院選をにらみ、首相の答弁能力への懸念が政権運営に影を落とす可能性もある。[br][br] 当意即妙の能弁でなくとも、真剣に国民に語りかける姿勢で国会答弁に臨めば真意は伝わるはずだ。政治家が説明責任を果たすことが、民主政治の基本であると首相は自覚すべきだ。