第100回オール讀物新人賞に、三沢市の塾講師高瀬乃一(のいち)さん(46)の「をりをり よみ耽り」が選ばれた。江戸時代後期、貸本屋を営む女性のひたむきな姿を描いた短編で、発売中の小説誌『オール讀物』11月号に掲載されている。選考委員4人の満場一致という高い評価を受け、「最初だけと言われないよう、これからも面白い小説を書き続けたい」と高瀬さん。自身の本が書店に並ぶ日を夢見て物語を紡いでいく。
同賞はエンターテインメント短編が対象で、小説家の藤沢周平さん、佐々木譲さんらを輩出した。今回は2575点の応募があり、安部龍太郎さん、有栖川有栖さん、門井慶喜さん、村山由佳さんが選考委員を務めた。
「をりをり~」は、出版統制が強まる中で良い本を手に入れようと奔走する勝ち気な女性せんが主人公。幼なじみとの恋や、怪しげな老絵師と幕府の「狗(いぬ)」の存在が物語に奥行きを与えている。選考では、主人公の魅力的な造形と風物描写の安定感、時代の雰囲気を的確に捉えた点、匂い立つような官能描写などが高く評価されたという。
高瀬さんは愛知県出身。高校時代に読んだ小説に影響を受け、「書店に並ぶような本を書きたい」と、20歳ごろから執筆を始めた。航空自衛隊三沢基地勤務後、結婚や子育てで物書きを離れたが、東日本大震災を機に「人はいつ死ぬか分からない。後悔したくない」と、再び精力的に物語を書き始めた。本紙のデーリー東北新春短編小説でも、新人賞と1席を受賞している。
オール讀物新人賞の最終候補入りは3度目で、「今回駄目なら諦めようかとも思っていたので、ほっとした」と笑う。時代物に手応えを感じており、シリーズ化も構想しているという。
実生活では、3人の娘がいる高瀬さん。「みんな今は小説に興味がないけど、いつか読んだ時に、ヒントになる女性の生き方を伝えられるような作品を書いていきたい」。作家の顔に、母親の顔が重なった。