天鐘(10月25日)

南米・チリの鉱山で起きた落盤事故での「奇跡の救出」は、ちょうど10年前の10月のことだった。地底に閉じ込められた33人の労働者が次々に助け出される場面は鮮烈な印象として残っている▼地下600メートルに70日。不安と飢えを、男たちは強い連帯と.....
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 南米・チリの鉱山で起きた落盤事故での「奇跡の救出」は、ちょうど10年前の10月のことだった。地底に閉じ込められた33人の労働者が次々に助け出される場面は鮮烈な印象として残っている▼地下600メートルに70日。不安と飢えを、男たちは強い連帯と精神力で乗り越えた。英雄と呼ばれ、映画にもなった彼らだが、その後は事故がトラウマとなり不眠症やうつに悩む者が多いと聞く▼突然投げ出された究極の暗闇。「終わりなき時」に震え、絶望の文字が浮かんだに違いない。逃げ場のない閉所の怖さを思う。一方、劇的な救出作戦ばかり話題になり、肝心の事故原因や責任は詳しく報じられなかった記憶もある▼古い鉱山事故を思い出したのは、都内の住宅地でいきなり地面が陥没するというニュースがあったからだ。中は空洞、パイプ類が見えた。都会の出来事とはいえ、背筋が冷たくなる話である▼気になるのは地下深くでのトンネル工事との関係だ。聞けば「大深度」というこのエリア、掘削には用地買収も土地所有者の同意も必要ないらしい。その手軽さゆえに、事業者の鍬(くわ)に思わず力が入り過ぎたというわけでもあるまい▼資源と利便を求めて、人は地面を掘り、地中を削ってきた。大都会が乗る地の底を覗(のぞ)けば、既に無数の縦穴、横穴が走る。過ぎたる開発への警鐘か。慎重さを欠けば、さらに大きな落とし穴が待っている気がする。