天鐘(10月14日)

旅の達人と言われるノンフィクション作家の沢木耕太郞さんは16歳のときの鉄道旅で心に残る体験をする。お金がなく、北上駅の待合室で毛布をかぶり一晩過ごしたときのことだ▼夜中に、ふと目が覚めると、ホームレス風の男が近寄ってくる気配。2人の他には誰.....
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 旅の達人と言われるノンフィクション作家の沢木耕太郞さんは16歳のときの鉄道旅で心に残る体験をする。お金がなく、北上駅の待合室で毛布をかぶり一晩過ごしたときのことだ▼夜中に、ふと目が覚めると、ホームレス風の男が近寄ってくる気配。2人の他には誰もいないはずである。恐怖で目を閉じ、身を硬くしていると、その男性はずれ落ちた毛布をそっと掛け直してくれた▼人を疑ったことを恥じ、以来、「旅先の性善説」を唱えるようになったと沢木さんは言う。行く先々での思いがけない人の情けもまた旅の魅力。自身のエッセー集『旅のつばくろ』で紹介する逸話である▼今日は「鉄道の日」。初めて鉄道が開業した祝いの日は今回、予期せぬ感染症の中で迎えた。苦境に立つ鉄路に思いを致せば、この時勢に湧く旅心もあろう。政府の支援事業に乗るのも、それはまた小さな人助けである▼その「Go To トラベル」、二転三転の割引率変更が混乱を呼んでいる。泥縄的な制度にはほころびが出る。飲食店では「イート」でのポイント分捕りも問題に。何とも落ち着かぬ、コロナ下での乾いた旅の風景だ▼旅は心の解放という。景色に感動、人情が染みる気ままな旅が今こそ恋しい。沢木さんの「つばくろ」とはツバメのこと。本の帯に〈ツバメのように軽やかに。人生も、旅も〉とある。早く取り戻したい、旅本来の喜びがある。