天鐘(10月3日)

つぶらで大きく潤んだ瞳。愁いを秘め、夢見がちな表情。しなやかに伸びた現代風の肢体。着物を緩めに着こなし、木に寄り掛かる美女がふとこちらを振り返ったら…▼朝からドキリとする描写だが、画家竹久夢二が描く“夢二式美人画”のエッセンスだ。それまでの.....
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 つぶらで大きく潤んだ瞳。愁いを秘め、夢見がちな表情。しなやかに伸びた現代風の肢体。着物を緩めに着こなし、木に寄り掛かる美女がふとこちらを振り返ったら…▼朝からドキリとする描写だが、画家竹久夢二が描く“夢二式美人画”のエッセンスだ。それまでのただ美しいだけではない内面から滲(にじ)む優しさや強さ、儚(はかな)さまでも表現しようとした“実存的な美人画”である▼明治17年、岡山県に生まれ、神戸中学に進んだが画家を目指して上京。生活のため絵葉書を制作した。その絵葉書を売る店の未亡人、店に出入りしていた若い画学生、洋画家のモデルらと次々に出会い、結ばれた▼彼女らの生きている美が夢二式の原型となった。ふくよかな頬(ほお)に切れ長の目、おちょぼ口の平安美人、江戸末期から明治の目鼻立ちがはっきりして洋装が似合う“文明開化型美人”とは明らかに違う美である▼そこに匂い立つ美を描かずにはいられなかったのだろう。夢二式でデフォルメされた作品群は、特に女性達の心を鷲(わし)づかみにした。版画世界にとどまらず、楽譜の装丁や今に残る『宵待草』の作詞も手掛けている▼51年の生涯は独学一筋だったが、わが国初の個展は国の文展を凌(しの)ぐほどの人気だったとか。「竹久夢二展」(11月8日まで)が七戸町立鷹山宇一記念美術館で開かれている。大正ロマンの旗手、夢二の美意識に触れてみてはいかがだろう。