【ここに決めた 移住人】五戸で就農の山口さん夫妻

農作業に励む山口平さん(右)と千代さん。昨年独立し、少量多品目の野菜を栽培している=9月下旬、五戸町倉石又重
農作業に励む山口平さん(右)と千代さん。昨年独立し、少量多品目の野菜を栽培している=9月下旬、五戸町倉石又重
「パクチーはどのくらい取ればいい?」「ニンジンも必要だよね」。暑さもすっかり和らいだ9月下旬、五戸町倉石又重地区の畑に収穫作業に精を出す夫婦の姿があった。「ちへいの畑」と名付けた70アールの農場を営むのは、神奈川県出身の山口平さん(40)と.....
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 「パクチーはどのくらい取ればいい?」「ニンジンも必要だよね」。暑さもすっかり和らいだ9月下旬、五戸町倉石又重地区の畑に収穫作業に精を出す夫婦の姿があった。「ちへいの畑」と名付けた70アールの農場を営むのは、神奈川県出身の山口平さん(40)と平内町出身で妻の千代さん(41)。農業の道を志し、会社勤めを辞め、2017年3月に千葉県から移住した。少量多品目の野菜の無農薬・無肥料栽培に若手農家のこだわりが詰まる。手間暇は掛かっても、食べた人たちの「おいしい」の一言は、何物にも代え難い喜びだ。[br][br] 結婚した10年前は移住を考えもしなかった。だが、30代半ば頃から、千代さんの心には違和感が生じ、徐々に大きくなっていった。「混み合った電車やビル群を見ていると、どこか不自然な感じがして」。平内の実家に帰省するたび、山や畑ののどかな風景に引かれる自分がいた。[br][br] そんな時、平さんの体に異変が起きた。ファストフードを口にすると、体に発疹が出るようになり、日々の食べ物に気を遣うようになった。安全な作物を自分たちの手で栽培したい―。夫婦の思いは重なった。「青森で就農しよう」[br][br] 農業未経験の2人にとって、移住先選びは何よりも重要だった。冬の生活も考えれば、積雪の少ない地域が理想的に思えた。五戸を選んだのは、都内で開かれた三八地域の自治体の移住セミナーに参加したことがきっかけ。無農薬・無化学肥料の多品目栽培に取り組む先輩移住者が、研修生を受け入れると知った。[br][br] 漠然としていた夢が現実味を帯びた。平さんは当時、アパレル会社に勤め、安定した収入を得ていたが、迷いはなかった。[br][br] 移住した倉石地区は五戸でも農業が盛んで、ニンニクやゴボウ、リンゴなどさまざまな作物が栽培される。2年間の研修を積んだ平さんは昨年独立し、千代さんも町の地域おこし協力隊の任期を終え、本年度から畑仕事に専念する。[br][br] 借り受けた畑は土壌がよく、「すごく恵まれている環境」と平さん。インターネットサイトを通じた個人客との直接取引を中心に生産した野菜を販売しており、営業や商品の包装、発送と忙しい毎日を送る。[br][br] 新天地での生活は4年目を迎えた。住居はもともと空き家で、移住者仲間が探してくれた。「イモの生育はどうだ」「寒くないか」。近所の人たちともすっかり顔なじみで、温かく迎えてくれた地域への感謝は尽きない。[br][br] 自然豊かな山里を包む満天の星空など何気ない“田舎の日常”もお気に入りだ。かつて住んでいた千葉では望むべくもなかった生活。収入は下がったが、夫婦に後悔はない。[br][br] 「あのまま関東にいたら、きっとこれほど面白い暮らしはできなかった。こういう生き方、働き方もあるんだということを多くの人に知ってほしい」[br][br] 首都圏への人口の一極集中が叫ばれて久しい。一方で、近年は地方暮らしに魅力を感じ、移住に興味を持つ人も増えている。北奥羽地方を「第二のふるさと」に決めた“移住人”の暮らしや人生の選択にスポットを当てる。農作業に励む山口平さん(右)と千代さん。昨年独立し、少量多品目の野菜を栽培している=9月下旬、五戸町倉石又重