新型コロナウイルスの感染者情報の公表を巡り、東北6県で対応が分かれている。青森、福島は国の指針に基づき個人情報保護の観点から、感染者の職業を明かしてない。一方、岩手は「県民の不安をあおらず、風評被害を防ぐため」と市町村名や職業を公表している。専門家は「感染拡大防止の観点と、住民の安心感とのバランスを考えなければならない」と述べ、優先順位を付けるなど適切な情報公開の必要性を訴えている。[br] 感染症法は、感染症のまん延防止のため、感染者情報の積極的な公表を求めるとともに、個人情報への配慮を定めている。厚生労働省は個人情報保護や風評被害に配慮し、職業や行動歴は公開しない指針を示しているが、公表内容は自治体の裁量に委ねている。[br] 6県の公表状況をみると、青森、秋田は居住地を「保健所管内」とする一方で、岩手や宮城は「市町村」を明らかにしている。岩手は「保健所管内だと県民の理解を得るのが難しい。不安をあおらず、風評被害を発生させないように詳しく知らせている」と説明。福島では人口規模が小さく個人の特定がされやすい町村の場合、保健所管内としている。[br] 職業については青森、福島を除く4県は公表。秋田は「他県の公表状況と比較しつつ、県民を不安にさせないため」としている。[br] 感染者が特定され、誹謗(ひぼう)中傷を受けるケースが県内でも相次いでいる―として、青森県は8日、新たな公表基準を報道機関に示した。[br] これまで公表してきた職業について、「感染拡大防止に関係がない」として非公表に改めた。行動歴は範囲を狭め、濃厚接触者は合計人数や関係性のみを明らかにすることとした。[br] 県健康福祉部の有賀玲子部長は「感染者が少ない県内では個人が特定されやすい。感染拡大防止に必要な情報を整理し、線引きすることが必要と考えた」と理解を求めた。[br] 取材に対し、福島大の筒井雄二教授(実験心理学)は「公表される情報量が住民の安心感や不安感に密接に関係している」と解説。情報が多く細かいほど人は安心するが、誹謗中傷が起こるリスクが高まる。反面、情報が少なければ誹謗中傷は起こりにくくなるが、デマやウワサが広がりやすくなるという。[br] 筒井教授は「行政が個人を特定されないように最低限の情報を公表したとしても、他人を“攻撃”する人は感染者を突き止めて、糾弾するはず」と指摘。「公表の在り方だけで差別や偏見を防ぐのではなく、誹謗中傷そのものへの取り締まりや監視を検討していかなければならない」と強調した。