時評(9月5日)

新型コロナウイルス感染症の流行を止める切り札としてワクチンへの期待が高まっている。安倍晋三首相は「2021年前半までに国民全員に提供する」方針を示した。承認は大規模な臨床試験(治験)で厳密に評価されるもので、政治主導で前のめりにならないよう.....
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 新型コロナウイルス感染症の流行を止める切り札としてワクチンへの期待が高まっている。安倍晋三首相は「2021年前半までに国民全員に提供する」方針を示した。承認は大規模な臨床試験(治験)で厳密に評価されるもので、政治主導で前のめりにならないよう求めたい。[br] ワクチンは薬と違い、多数の健常者に投与するため安全性が特に重要だ。検査拡充や医療体制整備とともにコロナ対策の柱とするのは妥当だが、来年前半までの国民全員分の確保はかなり難しい。目標の結論ありきでなく、治験データを基に科学的に取り組むべきだ。[br] 世界保健機関(WHO)によると開発中のワクチン候補は世界中で約170種類あり、うち30種類が治験に入っている。これほど多くの努力が特定のワクチン開発に注がれたのはかつてない。初のコロナウイルスワクチンになるが、一部は近い将来に実現するだろう。[br] ワクチン開発で国家の主導権争いも激化している。ロシアは大規模な第3相治験を待たずに初めて承認し、中国も医療従事者に投与を始めた。米国ではトランプ大統領が11月の大統領選前の使用許可に積極的だ。各国首脳の思惑が実用化を急がせるとすれば禍根を残しかねない。[br] 通常は最低で数年かかる開発期間を短縮するためウイルスの遺伝情報を使う新手法も試みられている。ただ、実績に乏しく、どこまで通用するかは未知数だ。過剰な期待は控えたい。[br] 現在有望なのは欧米の製薬大手企業のワクチンで、治験は最終段階にある。厚生労働省は国内の開発に助成する一方、先行する英米の製薬企業と交渉して1億2千万人分を確保している。治験が成功する保証はないが、早くワクチンを接種できるよう保険をかけておくことは必要だ。輸入する際、国内の治験なしでよいかという難問もある。[br] 普及を念頭に、治験データを正しく評価し、量産や供給の体制を準備するのは望ましい。厚労省は重症化しやすい高齢者や医療従事者らを優先して全員無料で接種して、重大な健康被害が出れば補償する方針だ。接種は強制でなく、個人の自由意思によるので、判断材料として治験データ公表は欠かせない。[br] 新型コロナで国際協力も重要だ。WHOなどが計画し、21年末までに全世界で20億回分のワクチンを共同購入して供給を目指す「COVAX(コバックス)ファシリティー」には日本を含む170カ国以上が参加を表明している。こうした公平な支援も進めたい。