天鐘(8月14日)

北国は寒冷で綿花が育たなかった。麻や藤で着るものをこしらえた。暖かい綿は貴重。使い古しであっても、細かく裂いて地機で織った。江戸時代を起源とする「南部裂織」は、郷土の先人たちの知恵である▼仕事着や帯、こたつ掛けに生まれ変わって往時の生活を支.....
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 北国は寒冷で綿花が育たなかった。麻や藤で着るものをこしらえた。暖かい綿は貴重。使い古しであっても、細かく裂いて地機で織った。江戸時代を起源とする「南部裂織」は、郷土の先人たちの知恵である▼仕事着や帯、こたつ掛けに生まれ変わって往時の生活を支えた。現代においてはタペストリーやポーチ、カバーとして暮らしに溶け込む。戦後に廃れかけたものの、多くの団体が伝統工芸品の継承に取り組む▼独特の風合いは調和の妙。同じ布を使っても、経(たて)糸と緯(よこ)糸の重なり方や力の入れ具合によって、表情は全く異なる。素朴で鮮やかな唯一無二の存在。かつての“ボロ織り”は今や芸術作品である▼布を丹念に織り込むように精進を重ねたのだろう。体躯(たいく)に宿すのは技、そして強い意志。初土俵から4年、十和田市出身者として15年ぶりの関取である。新十両・錦富士の誕生に好角家も多い古里が沸く▼高校総体で個人3位。とはいえ実力者がひしめき、関取になれるのは10人に1人という厳しい世界。白星を重ねて手応えをつかみ、けがの苦しみも味わった。いまだ発展途上。新たなステージでさらなる飛躍を目指す▼経糸は真っすぐな心、緯糸は生き方―。南部裂織の復興に心血を注いだ菅野暎子さん(同市)が遺(のこ)した賦に箴言(しんげん)を読み解く。相撲道もまた然しかり。その四股(しこ)名のように、見事な錦を織り成してほしい。楽しみが増えた。