終末期よみがえる戦争の惨劇 体験者のエピソードを書籍化/音楽療法士の佐藤さん

米オハイオ州シンシナティ市でセッション中の佐藤由美子さん(右)=2016年 
米オハイオ州シンシナティ市でセッション中の佐藤由美子さん(右)=2016年 
米国ニューメキシコ州に住む音楽療法士・佐藤由美子さん=福島県出身=は、青森県内を含む日米のホスピスで死にひんした患者に寄り添い、歌や楽器演奏を通して安らぎを与えてきた。第2次大戦終結から75年を迎える今、佐藤さんの脳裏に刻まれているのは加害.....
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 米国ニューメキシコ州に住む音楽療法士・佐藤由美子さん=福島県出身=は、青森県内を含む日米のホスピスで死にひんした患者に寄り添い、歌や楽器演奏を通して安らぎを与えてきた。第2次大戦終結から75年を迎える今、佐藤さんの脳裏に刻まれているのは加害、被害の立場を問わず心に深い傷を負った多くの戦争体験者だ。「青春を戦争に奪われた人の言葉を、後世に伝えたい」とエピソードを執筆、本にまとめた。戦争がもたらす苦痛は「私は日本兵を殺した」「満州人へのひどい仕打ちを忘れられない」など一様にいまわの際で鮮明になるという。[br] 音楽療法では、終末期を迎えた患者や家族の心理状態、病状、リクエストに合わせてギターなどを弾いたり、一緒に歌ったりして精神的なダメージの軽減などを図る。 [br] 佐藤さんは米国の大学、大学院を卒業後、インターンシップを経て資格を取得。音楽療法士としてオハイオ州のホスピスで働いた。空軍に勤務する夫の異動とともに、おいらせ町に2013年から4年間滞在。県内でも音楽療法を取り入れた病院に勤めた。[br] 1200ケース以上にも及んだセッションで、人生の最期に、戦争に関わる記憶を明かす患者は国籍を問わず少なくなかった。[br] ホロコーストを生き残ったユダヤ人女性は、ドイツの作曲家ブラームスの子守歌を聞き「ナチスが来る」と泣き叫んだ。また、「若い日本兵を殺した。彼の家族を考えると―」とボロボロと涙を流したのは、南太平洋で戦った元兵士。[br] 戦後処理で広島に進駐した退役軍人は、全てが焼け焦げ、腐臭が漂う被爆地の光景が心から離れなかったという。銃後の米国女性も、捕虜になって帰国した夫がストレス障害から酒に溺れ「別人になっていた」と悲しげに振り返っていた。[br] 一方、日本でも、病床の女性が旧満州に移住していたときの出来事を忘れていなかった。「満州人に動物以下の扱いをしていた。はっきり覚えている」と顔をこわばらせた。[br] 17年に再び米国に戻った佐藤さんは、音楽療法の活動中に記していたメモを基に、戦争体験が終末期の患者一人一人にもたらしたつらい悲しみを記録。大戦を巡る日米で異なる捉え方など考察も交えて一冊にまとめ、『戦争の歌がきこえる』(四六判264頁、柏書房)と題して7月14日に刊行した。[br] オンラインで取材に応じた佐藤さんは、大戦の悲痛な記憶を後世に残す意義を指摘。「ベトナム戦争をはじめ、今でも海外での戦闘で心を痛める兵士が多い。問題解決が急がれている」と述べ、戦争体験が現在進行形で生み出されている現状を憂えた。米オハイオ州シンシナティ市でセッション中の佐藤由美子さん(右)=2016年