日本原燃が安全性を高めていくためには、ヒューマンエラーは起こりうる前提で、トラブルの数字ばかりに固執しすぎない制度や環境の構築、醸成が必要だ。各ルールが安全上、どの程度重要なのかを作業員に理解させた上で、良い現場で実践されている「調整」事例を社内で展開すべきだ。[br] 一般的な品質保証は、ルールを順守しているかを確認し、クリアしていれば安全だという考えに立つ。原子力分野でも事業者自らが定める保安規定と、それに基づく手順書を逐条的に照らし、違反の有無の確認を基本としている。[br] ただ、人間の行動心理を研究し、多くのヒューマンエラーが環境に起因すると主張する者として、この手法だけではルール順守のみが至上命令となってしまい、真の安全確保は困難であると考える。[br] 人間が安全を確保するために重要な役割を果たすシステムは今、複雑かつ巨大になっている。使用済み核燃料再処理工場もその一つ。トラブルが続いた結果として守るべきルール数は各現場で膨大な量になった。[br] 守らなくていいルールはない。だが、自然災害発生時のように、物理的に時間も人も足りないという状況に陥った場合、どのルールが危険に直結するか、ルールに優先順位を付けて取り組むことが求められる。[br] 原子力規制委員会は4月から、安全性への影響度を踏まえてトラブルの判定に差を付ける新検査制度を導入したが、規制当局の検査官の判断によっては過去の保安検査と同じく、違反の評価が一律になってしまう。現状は単に新制度への対応で事業者の負担が増えており、改善が急務だ。[br] トラブルゼロを絶対視しない社会環境の醸成も必須だ。海外の研究によると、軽微なトラブルが多い建設現場は、少ない現場に比べて死亡率が低いというデータがある。2010年にメキシコ湾で起きた原油流出事故の現場は7年間、無事故だった。トラブルの数だけでは安全性のバロメーターにはならない。[br] 安全な現場ではルールに基づきながらも、監督者がうまく調整している事例が見受けられる。それは手順書にはないプラスアルファの作業で、当事者は当たり前に実践していることが多い。安全性向上に向けて、ルール順守を監視するばかりでなく、良い現場で行われている工夫を見つけ、共有していくことが重要だ。[br][br] 【略歴】たかはし・まこと 1991年、東北大工学研究科原子工学専攻博士課程修了。工学博士。2012年から同大大学院工学研究科技術社会システム専攻教授。人間と機械が情報をやり取りするための手段や装置を意味する「ヒューマンインタフェース」の設計・評価などを研究。原子力規制庁原子炉安全専門審査会委員のほか、青森県原子力政策懇話会委員、六ケ所村応援大使も務める。山形市出身。56歳。