天鐘(7月20日)

『奥の細道』は言わずと知れた松尾芭蕉の俳諧紀行。奥州や北陸など行程は2400キロにも及んだ。幾度も筆硯(ひっけん)を新たにして5年。躍動感に満ちた文体、格調高い名句が生まれた。〈閑(しずか)さや岩にしみ入る蝉の声〉▼言葉遊びが主流だった俳諧.....
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 『奥の細道』は言わずと知れた松尾芭蕉の俳諧紀行。奥州や北陸など行程は2400キロにも及んだ。幾度も筆硯(ひっけん)を新たにして5年。躍動感に満ちた文体、格調高い名句が生まれた。〈閑(しずか)さや岩にしみ入る蝉の声〉▼言葉遊びが主流だった俳諧に「心」を取り込み芸術の域に高めた。俳句の源流となる。芭蕉の全てが集約された傑作に広がるのは深遠なる世界観。5カ月の長旅で見いだした新境地「不易流行」である▼時代と共に変化する「流行」こそが、時代を超越した「不易」を生み出す。相反する両者の概念は根底でつながっている―と説かれる。蕉風の俳論ではあるが、激動の昨今はビジネスの世界でも好んで用いられる▼高校総体、国体、選抜大会など全国制覇は前人未到の58回。高校男子バスケットボール界の名門「能代工業」(秋田県能代市)の名前が消える。近隣校と統合し、来春から「能代科学技術」として新たなスタートを切る▼人気漫画に登場する強豪校のモデル。まちおこしに一役買った。校名存続を願う署名運動も。内外を巻き込み、バスケの街が大きく揺れた。青森県内の現状も重ね合わせ、地方に変容を強いる少子化を思い知る▼愛着が染みこんだ校名である。感傷も深いはずだ。しかし伝統は受け継ぐだけでない。新たに築くものでもある。個々の可能性を伸ばし、成長へと導く。教育の本質もまた不易流行であろう。