使用済み核燃料再処理工場(六ケ所村)の操業から将来的な廃止措置まで見通すと、総事業費は約13兆9400億円にも上るという。国の認可法人「使用済燃料再処理機構」(青森市)が先月示した最新の試算だ。桁違いの巨額さと共に注視すべきは、公表が始まって4年連続で増加している点だろう。[br] 前年から約20億円増え、当初の計画比では既に1兆円超膨らむ。原子力規制委員会の審査に事実上合格したとはいえ、中核を成す核燃料サイクルに不透明感が付きまとう中、さらなるコストの上振れは避けられない。[br] 機構は日本原燃に現業を委託し、事業主体としての一義的な責任を有する。使用済み核燃料の発生量に応じて電力会社に拠出を義務付ける法整備に伴って2016年に発足した。[br] 懸念するのはこの仕組みだ。[br] 原発は老朽化や安全対策費との採算から廃炉が進む。NPO法人「原子力資料情報室」(東京)によると、既存の33基と建設中の2基が一部で60年間の運転延長にこぎ着けても、現在の拠出金単価を踏まえれば1兆6千億円不足する。再稼働する原発も限られ、不足額は拡大する恐れがある。資金が枯渇して廃止措置が滞る事態は避けたい。[br] 一方で政策的な動向を見渡すと、再処理で取り出すプルトニウムを原発で再利用するプルサーマルが停滞し、工場が動き出すことには疑問の声も根強い。公的性格の強い電気料金が原資である以上、機構は負担に値するだけの正当性を語るべきだ。[br] では、課題に直面する機構はガバナンス(統治)をどう発揮するのか。 組織の要は意思決定機関の運営委員会と呼ばれ、幅広い知見を生かす狙いで法務や企業経営といった分野の識者8人で構成する。原子力推進の主導権が特定の利益集団に偏り「原子力ムラ」と批判される中、第三者の視点を反映する試みは結構だ。[br] ただ、兆円単位の資金に基づいて事業計画を決める重責にあって運営委がどこまで切り込めるかは未知数。委員がどんな発言をして、意思形成の過程にどう反映されたのか。こうした評価に欠かせない議事録も公開されていない。外部に公表するのはA4判で1、2ページほどの議事概要。これでは適切な運営かどうか検証のしようがない。[br] 機構幹部は試算を受けて「適切な総事業費が達成できるよう引き続き見ていく」と述べたが、青天井と化してはいないか。巨額の国民負担を管理する責任として、まずは積極的な情報公開を求めたい。