【9月入学制】導入への課題、メリットは? 青森県内識者に聞く

9月入学制の課題などについて語る弘前大教育学部の福島裕敏教授(左)と青森中央学院大経営法学部の高橋興教授。
9月入学制の課題などについて語る弘前大教育学部の福島裕敏教授(左)と青森中央学院大経営法学部の高橋興教授。
新型コロナウイルスによる学校の休校長期化を受け、学習の遅れを挽回する策として突如浮上し、導入の可否が検討されている「9月入学制」。一部の知事が積極的な導入を提起する一方で、学校現場を預かる地方自治体では慎重や反対の意見も上がる。緊急事態宣言.....
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 新型コロナウイルスによる学校の休校長期化を受け、学習の遅れを挽回する策として突如浮上し、導入の可否が検討されている「9月入学制」。一部の知事が積極的な導入を提起する一方で、学校現場を預かる地方自治体では慎重や反対の意見も上がる。緊急事態宣言の解除による学校再開の動きもあり、政府も慎重姿勢を強め、来年の導入は見送りとなりそうだ。[br] 入学時期の変更は社会にどのような影響を及ぼすのだろうか。弘前大教育学部長の福島裕敏教授(49)と、青森中央学院大経営法学部の高橋興教授(73)に9月入学制と日本の教育制度の在り方について聞いた。[br][br] 【福島裕敏教授】[br] ―9月入学制への移行が 検討されている。発端は高校生の発言だった。 学びの当事者である高校生自らが議論し、声を上げのは間違っていない。生徒たちが呼び掛けていたのは「自分たちの学びを保証してほしい」ということで、9月入学制はその一つの形でしかない。[br] 入学時期を移行するか否かは別として、大人は子どもたちが何を望んでいるのか聞き取り、学びの保証や支援の方法を示すなど、きちんと答えていくことが大切だ。[br] ―生じるメリットやデメリットは。[br] 休校で学校に通えなかった子どもたちが同じタイミングで学校生活をスタートできる。教職員に余裕が生まれ、夏休み中にじっくりと授業計画を立てられるようになる。[br] 一方、日本教育学会の試算では移行した場合、教員の雇用などで6兆~7兆円の費用がかかるとされる。制度の良しあしだけでなく、導入により何が起きるかを具体的に想定すべきだ。[br] ―授業時間を確保するために夏休みや休日を短縮する学校もある。[br] 授業を消化することが学校の役割なのか。日本の学校は緊張感が高い。授業で教わる内容や規則が多く、学校にいる時間も長い。非常に「密」な空間だ。不登校だった生徒が、休校期間中の分散登校なら学校に通えるようになったとの声も聞く。「密」にさらされた学校のシステムには戻してほしくない。[br] ―日本の教育の在り方について。[br] 人生の中で学校は通過点。子どもたちに何を学んでほしいのか、どう育ってほしいのか、との視点を大切にしないといけない。9月入学を求めていた高校生たちが取り戻したかったものは何だったのか。それを議論しなければ、移行してもしなくても同じことだ。[br] 決められた学習範囲が終わればいいのではなく、学校という場所で先生と子どもたちが互いに話し、関わることで生まれる関係が大切なのだろう。今回の休校をきっかけとし、学校の役割を考え直すことが求められている。[br][br] 【高橋興教授】[br] ―9月入学制への移行が 検討されている。[br] 学校現場は休校になったり、オンライン授業に着手したり、指導方法の変更に追われている。入学時期は社会が混迷している時に簡単に変更できるようなものではない。現段階で導入のメリットは極めて少なく、混乱の方が大きいのではないか。数年後ならまだ分かるが、今すぐに移行することは現実的でない。[br] ―想定される混乱とは。[br] 学校は社会から独立した世界ではない。国の会計年度と切り離して考えることはできず、学校だけ9月開始に移行すればいいわけではない。社会の根本的な在り方に関わる問題と捉えるべきだ。移行の時期に小学生や待機児童の数が増えることも想定される。ただでさえ、県内では保育士や教員を安定的に確保できるのか疑わしいのに、必要な人数を確保できるのか。[br] ―休校による学習の遅れを懸念する声もある。[br] 休校期間は、都道府県や県内の市町村でも差がある。特に受験を控えた中学3年生、高校3年生は不安が大きいだろう。国や県には、学習指導のために教職員を増やしたり、試験の出題範囲を狭めたりするなど、早急に基準を打ち出してほしい。[br] ―海外留学や外国人留学 生の受け入れが進むとの声もある。[br] 全ての制度を世界基準にする必要はない。学校に通う子どもたちの中で、圧倒的に少数の留学生のことを考える余裕があるなら、受験を控えた中学3年生や高校3年生の不安解消に向けた方針を示してほしい。[br] 青森中央学院大で受け入れている留学生の中にも、9月に来日して翌年4月までの期間は日本語学習に充てており、半年間が無駄になっているわけではない。[br] ―日本の教育制度はどう あるべきか。[br] 9月入学制を導入すべきか否か議論することは、長期的に見れば無駄ではない。これを機会に本格的な研究テーマになっていけばいい。急いで結論を出さなければならない問題ではない。導入のメリットやデメリットについて時間をかけて検討することが大切だ。9月入学制の課題などについて語る弘前大教育学部の福島裕敏教授(左)と青森中央学院大経営法学部の高橋興教授。