世界保健機関(WHO)の新型コロナウイルス対応を巡って米国と中国の対立が激化、トランプ米大統領が脱退も辞さないと警告するなど危機的な事態となった。[br] 米国は中国の香港への国家安全法制導入についても非難を先鋭化させており、世界は二大国の争いに振り回されている。 だが、今は何よりもコロナ後に向け国際的な協調と連携が必要な時だ。米中には、反目をやめ、歩み寄るよう求めたい。[br] トランプ氏は当初、中国のコロナ対応をたたえてさえいたが、途中から「中国ウイルス」などと批判を強め、WHOが中国寄りだとして矛先をテドロス事務局長に向けた。さらに抜本的な改革が見られなければ、資金の拠出を停止し、脱退も辞さないと突き付けた。[br] トランプ氏が中国とWHOに対する非難を強めているのは「初動対応が遅れて感染拡大を招いた」という批判をかわす狙いがあるのは間違いない。[br] 特に同氏は各種世論調査で民主党のバイデン前副大統領に後れを取り、11月の大統領選に向け焦りを強めている。そこで有権者に人気のある中国・国際機関たたきで支持率の回復につなげたいというのが本音だろう。[br] 米国がこれまで、国連や各国から食いものにされてきたという持論は同氏の「米国第一主義」の根幹であり、その主張にはなお根強い支持がある。 中国は「米政治家が汚名を中国に着せ、多くのうそをついている」(王毅国務委員兼外相)と反発。WHOは感染拡大阻止に貢献をしたと習近平国家主席が称賛、トランプ氏と真っ向から対立する姿勢を見せている。[br] だが、武漢でのウイルス発生を隠蔽(いんぺい)しようとしたとの疑念は消えていない。中国は「戦略的な成果を収めた」(李克強首相)と感染封じ込めを誇示している。だが国際的な調査に速やかに協力し、発生源を解明する行動こそ、新たなまん延を防ぐ道であることを肝に銘ずべきだ。[br] 「マスク外交」とやゆされるなりふり構わぬ医療援助は世界中に及ぶが、ウイルスに伴う国際的な不信感を払拭(ふっしょく)したいとの思惑が透けて見える。[br] 懸念されるのは米中の対立が香港への国家安全法制の導入を巡って一段と激化しそうなことだ。中国は米国の批判に「内政干渉」と反発している。[br] しかし、二大国が角を突き合わせていてはコロナ以後の世界経済の復興や国際秩序の再建はできない。米中は「新冷戦」に陥ることなく協調を優先させなければならない。