新型コロナウイルス対策が最優先課題である中、与野党が激しく対立していた検察官の定年を延長する検察庁法改正案について、政府、与党が今国会成立を断念した。[br] 安倍晋三首相と自民党の二階俊博幹事長が会談し見送りを確認したが、反対世論の高まりを踏まえたものだ。コロナ対策で一律10万円給付への転換に続く“迷走”で、政権の求心力低下は避けられそうもない。[br] 改正案のうち、検察官の定年を現在の63歳から65歳に引き上げ、検察幹部に対し「役職定年制」を導入することには異論は出ていない。しかし、特例として内閣や法相が認めた場合に役職を延長できる規定を設けたことに「検察の独立性が侵害される」と反発が強まっていた。[br] これには伏線がある。政府は1月、検察官の定年を延長できないとの法解釈を変更し、首相官邸に近いとされる黒川弘務東京高検検事長(63)の半年間定年延長を閣議決定したのだ。[br] まして今回の法案は、定年延長のための国家公務員法改正案と一体化した「束ね法案」として提出された。与党が衆院内閣委員会での採決を念頭に置いていた15日、森雅子法相は幹部がポストに残る特例要件に関し「現時点で具体的に全て示すのは困難だ」と答弁。反発した野党側は武田良太行政改革担当相の不信任決議案を衆院に提出、採決は見送られた。[br] この間、ツイッターでは検察庁法改正案に抗議する声が著名人を含め数百万件に上った。元検事総長や東京地検特捜部長経験者ら検察OBが「三権分立の否定につながりかねない」と、反対や再考を求める異例の意見書を法務省に提出した。[br] 野党側は改正案に関し森友学園問題などへの検察の追及をかわす狙いだと批判。安倍首相は否定した上で「恣意(しい)的な人事が行われることはない」と強調したが、従来の法解釈を一方的に変え黒川氏の定年延長を決めただけに説得力に欠けていた。[br] 一方、コロナ対策では与野党が協力、今も政策担当者が第2次補正予算案編成に向け議論を続けている。その最中に、世論の反対を押し切ってまで検察庁法改正案の成立を目指した姿勢は不可解で、見送り判断は遅すぎると言わざるを得ない。[br] 政府、与党は、野党側の主張する特例規定の削除については受け入れず、秋の臨時国会への継続審議とする方針だ。今後も法案修正に応じないのか、また黒川氏を指摘されてきた通り検事総長に起用するのか、対応を注視していく必要がある。