能面「千変万化」奥深さに引かれ 清野さん(三沢)面打ち20年以上

「表情は千変万化」と語る清野正雄さん。能面に魅力を感じ、面打ちにのめり込む=24日、八戸市田向2丁目の「アートギャラリーしるばにあっぷる」
「表情は千変万化」と語る清野正雄さん。能面に魅力を感じ、面打ちにのめり込む=24日、八戸市田向2丁目の「アートギャラリーしるばにあっぷる」
三沢市の元中学教諭清野正雄さん(82)=藤崎町出身=は、定年退職してから20年以上、能面の制作を続けている。これまでに419面(4月8日現在)を手掛け、完成した面は友人や知人に贈ったり、青森県内の神社仏閣に奉納したりしている。「無表情な人を.....
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 三沢市の元中学教諭清野正雄さん(82)=藤崎町出身=は、定年退職してから20年以上、能面の制作を続けている。これまでに419面(4月8日現在)を手掛け、完成した面は友人や知人に贈ったり、青森県内の神社仏閣に奉納したりしている。「無表情な人を指して『能面のような顔』と言うが、能面の表情は千変万化だ」。顔を動かさずともさまざまな表情を見せる能面の奥深さに引かれ、面打ちに没頭する日々だ。[br] 制作は、厚い木材に輪郭を描く工程から始まる。清野さんが使うのはヒバの木。伝統的な面の写真を手本に、無心でのみを入れて形を整え、顔料などを塗り下地を作る。最後に化粧をして完成だ。「目を入れるまでは、どんな顔になるのか分からない」。時間を見つけて少しずつ作業を重ねる。一つの面が出来上がるまでに1カ月はかかる。[br] 清野さんは1998年、三沢市立第一中で教員生活を終えた。自由な時間の使い方を考えていたところ、能面に興味を持ち、同市で作り方を教えている井上京香さんから指導を受けた。「木を削ったり化粧をしたりして、面に命が吹き込まれていくことに面白さを感じた」。すっかりのめり込み、5年ほど学んだ後は独学で腕を磨いた。[br] 数が増える一方の作品を見て、自己満足は良くないと思い立ち、親しい人らに寄贈するように。喜んでくれる反応を励みに制作を続ける中、小学校時代の同窓の木村守男元知事の推薦もあり、津軽地方の神社に作品を奉納した。[br] だが、一つの疑問がわいた。「神様や仏様にささげるにふさわしい面だろうか」。技術を評価してもらおうと、2010年に開かれた金沢能楽美術館(金沢市)など主催の「現代能面美術展」に応募。初めて出した作品「獅子口(ししぐち)」は、能楽師らが審査に当たる同展で、見事入選を果たした。[br] 「自信が持てた。専門的な視点でレベルを見てもらえたから」。さらに意欲が高まり、面打ちに熱中。13年に同展に出品した際には、入選より上の「上位入選」に輝いた。神社仏閣への奉納も続け、弘前市の岩木山神社や弘前八幡宮に面をささげた。[br] 能面は光の加減や角度などで表情が出てくる。形は変わらないが、舞う人物の感情が見る側にも伝わる。「般若は怒りのほか悲しみも感じさせる。怒りの顔の裏には『なぜこんな顔にならなければいけないのか』という悲しみもあるだろう」。清野さんは、人間の歩みを表しているのも能面の魅力―と語る。[br] 名工が作った面を手本に、毎回忠実に再現しようと努める。イメージ通りにいかないことも多いが、「出来上がるのは世界に一つしかない作品。そこが面白さでもある」と明るい。[br] 目標は「97歳までに600面を作る」。96歳まで生きた父親よりも長生きしたい、との思いからだ。「自分の面を評価し、好きだと言ってくれる人がいるのがうれしい。それが続けられる理由かな」。自ら打った面に目を細めつつ、さらなる意欲をにじませる。「表情は千変万化」と語る清野正雄さん。能面に魅力を感じ、面打ちにのめり込む=24日、八戸市田向2丁目の「アートギャラリーしるばにあっぷる」