全国で唯一、新型コロナウイルスの感染者が「ゼロ」のまま大型連休に入った岩手県。だが、県北地方は生活圏の八戸市で感染者が出たことで、早い段階から緊張感が高まっている。県内の多くの学校が休校期間を4月29日から5月6日に設定する中、感染を懸念して連休明けも休校を継続する自治体も。県の休業要請を受けて中心街はさらに静まり返り、飲食店経営者は悲鳴を上げる。医療現場は不安と闘いながら、感染者が出た場合の受け入れ態勢の整備に努める。[br] ◆学校再開心待ちに[br] 多くの住民が通勤、通学や買い物、病院通いなどで県境をまたぎ、八戸を行き来する洋野町。町教委は、大型連休後の5月7~17日も独自に小中学校の休校を継続することを決めた。[br] 「連休中は人の移動が避けられず、感染リスクが高まる恐れがある」と担当者。人口の多い八戸が地理的に近いことに加え、首都圏などからの帰省客の動きを警戒している。[br] 臨時休校前の最後の登校日となった4月28日、町立種市小では通常の授業を行い、休校中の注意事項などを説明。児童は給食の時間にはしっかり手を洗い、やや控えめにおしゃべりしながら、食事を楽しんだ。[br] 6年の小林稀君(11)は「学校がないと暇だし、友達にも会えず寂しい。再開したら友達とたくさんおしゃべりしたい」と学校再開が心待ちの様子。6年の庭瀬音寧さん(11)は「休校中は友達と遊べない分、家族と一緒に楽しく過ごしたい」と前向きに語った。[br] ◆飲食店街は閑散と[br] 久慈、二戸両市の飲食店街は閑散としている。県の休業要請の対象から外れたスナックや居酒屋も連休期間は多くの店が休業したり、日中のテークアウトに切り替えたりしており、例年なら帰省客でにぎわう光景は一変した。[br] 飲食店が並ぶ久慈市川崎町も4月下旬から明かりがまばらに。續石正さん(45)が経営する洋風居酒屋は、4月の売り上げが3分の1になった。[br] 迷いながらも営業を続けてきたが、「帰省客が来るかもしれない。人の動きが怖い」と、連休中の休業を決断。国や県が打ち出した支援策を好意的に受け止めつつも、新型ウイルスの終息が見通せないことに不安を募らせる。[br] 休業を決めた二戸市の40代飲食店経営の男性も「いつ終息するか分からず、先行きが不透明なのが一番苦しい」と吐露。「現場は今、困窮している。どんな方針を打ち出すにしても、国や自治体にはスピード感を持って進めてほしい」と地域の声を代弁する。[br] ◆緊迫する医療現場[br] 二戸地域で感染症指定医療機関となっている一戸町の県立一戸病院。感染症病床が4床あり、患者が増えた場合は廃止した病床の活用も検討している。[br] 感染症を専門に扱える医師が少ないため、発生時の医師や看護師の勤務体制について協議を重ねる。必要な物品の確保にも努めるなど、新型ウイルス対策を着々と進める。[br] 幸いにも県内で感染者は確認されていないが、髙橋和彦事務局長は「いつ新型ウイルスの患者が発生するか分からず、現場は常に緊迫している」と語る。[br] 一方、医療資源に乏しい県北地方で複数の感染者が確認された場合、「本当に対応できるのか」と懸念する住民は少なくない。[br] 二戸地域のある自治体関係者は「もともと医師が足りず、病床数も少ない。ひとたび集団感染が起きれば、地域医療は耐えきれるのか…」と危惧し、県のリーダーシップで早急に体制を整備する必要性を訴える。