地球温暖化がもたらす深刻な「気候危機」を回避するためにはパリ協定に参加する各国が温室効果ガス削減目標を大幅に上積みすることが求められている。日本は世界5位の排出大国でありながら目標は欧州連合(EU)と比べて格段に見劣りしていた。[br] しかし政府は目標再提出の期限だった2月末までに新たな目標を国連に提出しなかった。既に70カ国以上が上積みを表明している中で、一向に変わらない日本の消極姿勢は各国の努力に水を差す恐れがある。期限は延長されそうだ。政府には上積みに向けた再検討を強く求めたい。[br] 180カ国以上が提出した目標を各国が達成しても産業革命前からの気温上昇は今世紀末には3・2度に達するという。パリ協定の「今世紀末までに1・5度に抑える」という努力目標にほど遠い。[br] 昨年12月の国連気候変動枠組み条約第25回締約国会議(COP25)では上積みを各国に義務付けることができなかった。国連のグテレス事務総長は失望感をあらわにし、目標が低い国に自主的な上積みを求めていた。[br] EUの目標は「1990年比で40%減」だが、削減比率を55%まで高めることを目指している。日本の目標は「2030年度に13年度比で26%減」。90年度比に換算するとわずか18%の削減率だ。[br] 問題は、COP25以降、日本政府が削減目標の見直しを真剣に議論した気配が全くないことだ。COP25の会場で批判を浴びた小泉進次郎環境相は最近、発展途上国での石炭火力発電所建設支援の要件を見直す議論をすると表明した。実現を期待したいが、早急に見直すべきは石炭火力を「ベースロード電源」と位置付ける旧態依然の日本のエネルギー政策そのものだ。[br] 昨年は強大な台風の被害を受けた日本をはじめ、世界で異常気象が頻発した。国連環境計画は今の排出傾向では今世紀末には「破滅的な影響」が生じると警告。気候危機は今や世界の共通認識だ。だが日本政府から危機感は全く伝わらない。世界は今、コロナウイルス感染症の世界的大流行の阻止に向けて強い危機感を共有している。目の前に広がる危機だからだが、気候危機も既に顕在化している。[br] 1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、アル・ゴア元米副大統領は強調した。「このままでは近い将来取り返しのつかない被害をもたらすのに政治家の危機感が足りない」。日本の政府関係者にも向けられた言葉と聞くべきだ。