時評(2月19日)

やはり批判は免れないだろう。新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を受け、自民党などから憲法改正による緊急事態条項の新設に結び付けようとする発言が表面化した。 現行憲法下では人権への配慮から感染拡大を防ぐための強制措置には限界がある。このた.....
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 やはり批判は免れないだろう。新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を受け、自民党などから憲法改正による緊急事態条項の新設に結び付けようとする発言が表面化した。[br] 現行憲法下では人権への配慮から感染拡大を防ぐための強制措置には限界がある。このため緊急事態条項、いわゆる国家緊急権の規定を設け、いざという場合には内閣に強力な権限を付与して国民の権利を一時的に制限できるようにしようという主張だ。[br] だが現在、感染症対策の法律として感染症法や検疫法などが整備されている。本来なら感染症の広がりに応じて現行法に基づく施策を尽くし、不十分な点や不備があれば法律を見直すのが筋だ。それをいきなり改憲につなげようとする自民党の姿勢は到底是認できない。[br] 自民党は、大規模災害時に内閣が法律に代わる緊急政令を制定できるとした改憲案を掲げる。肺炎の広がりで高まる国民の不安に乗じて改憲への機運を盛り上げる意図があるとすれば「悪乗り」(玉木雄一郎国民民主党代表)以外の何物でもない。[br] 改憲論が浮上するきっかけは中国・武漢からの帰国邦人について、現行法ではできない強制隔離を求める声が自民党内で出たことだった。伊吹文明元衆院議長は「緊急事態に個人の権限をどう制限するか。憲法改正の大きな実験台と考えた方がいいかもしれない」と発言。改憲に前向きな下村博文選対委員長も「他国では二次感染したら大変だから本人の意思にかかわらず家に帰さないことができる」と述べ、議論を促した。[br] 日本維新の会の議員も同調して改憲論議の活性化を求めている。だが現状が緊急事態条項なしでは乗り切れないほど切迫し、対応が困難かといえば、そんなことはあるまい。政府は新型肺炎を感染症法上の指定感染症とする政令を前倒しで施行、患者の強制的な入院や就業制限が可能だ。空港や港で感染が疑われる人に検査や診察を指示できる検疫感染症にも指定済み。入管難民法に基づく入国拒否の措置も取っている。[br] 国内感染がさらに深刻な事態となった場合、緊急事態宣言や強制措置を定めた新型インフルエンザ等対策特別措置法の適用を検討することも選択肢としてあるだろう。[br] 新型肺炎と改憲を安直に結び付ける自民党の主張は、とにかく改憲を実現したいというこの党の体質を鮮明に示している。それは憲法論議をゆがめる危険がある。