【山車小屋の行方】(下)将来像

山車小屋の確保が重要な課題となっている八戸三社大祭。山車組、行政、地域による問題意識の共有が重要だ(写真はコラージュ。左から時計回りに、昨年の祭りの山車運行、長者まつりんぐ広場の山車小屋、今年の山車を作る制作陣)
山車小屋の確保が重要な課題となっている八戸三社大祭。山車組、行政、地域による問題意識の共有が重要だ(写真はコラージュ。左から時計回りに、昨年の祭りの山車運行、長者まつりんぐ広場の山車小屋、今年の山車を作る制作陣)
三つの神社の神事と華やかな山車の運行が融合した八戸三社大祭。約300年の歴史と伝統、ユネスコ無形文化遺産、市民の宝―などその魅力はさまざまな言葉で表現されるが、価値の根底には全て「地域」との関わりがあると言っていい。 山車小屋が果たす役割は.....
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 三つの神社の神事と華やかな山車の運行が融合した八戸三社大祭。約300年の歴史と伝統、ユネスコ無形文化遺産、市民の宝―などその魅力はさまざまな言葉で表現されるが、価値の根底には全て「地域」との関わりがあると言っていい。[br] 山車小屋が果たす役割は制作の場だけではない。祭りに参加する山車組の拠点であり、世代を超えたメンバーや近隣住民らが交流する地域コミュニティーの場でもある。[br] 町内会単位で活動する山車組であれば、大人の制作陣が深夜まで山車を作り、子どもたちは学校の放課後にお囃子を練習。住民は山車組をサポートし、日々完成に近づく山車と祭り囃子のムードを楽しみながら、本番を心待ちにする―。そんな一体感が三社大祭の醍醐味の一つでもあった。[br] しかし、地元に小屋を構える山車組は時代の変遷とともに減少し、子どもが山車に触れる機会が少なくなりつつある。祭り離れや担い手不足に拍車を掛け、組の存廃に直結する懸念も拭えない。[br] 今年の祭りを前に、地元近くにあった小屋を移転した「六日町附祭若者連」は、保護者がお囃子の子どもたちを送迎し、何とか移転前の活動を保っている。責任者・田端隆志さん(65)は「引き子やお囃子で参加する子どもは、制作過程を見て『大人になったら自分も作りたい』と思うようになる。こうして山車組は続いてきた」と強調する。[br]   ◆    ◇[br] 市街地環境の変化や住民のライフスタイルの多様化が進む今、山車小屋の将来像はどうあるべきか。[br] 一部の関係者は、長者まつりんぐ広場のように、小屋を「集約化」する重要性を説く。ただ、一カ所に全てを集めるのではない。今後、移転を余儀なくされる組が段階的に増える可能性を見据え、複数の小屋を設置できる場所を数カ所に分けて確保する方法だ。[br] 制作に伴う「騒音」の解消と地域との信頼関係が不可欠だが、各組の集積によって新たな交流が生まれ、切磋琢磨して制作技術の向上につながる契機にもなり得る。[br] はちのへ山車振興会の小笠原修会長も集約化構想に賛同。「今後は山車組が個別に制作場所を探し出すのは難しくなる。できれば山車小屋を市中心部の3、4カ所に集約し、年間を通して常設できるようになればいい」との考えを示す。[br] 旧柏崎小跡地は、集約化が可能な適地の一つ。市は現在、下水道処理施設「東部終末処理場」を暫定利用する4組の移転先とする案を示しているが、地元町内会や祭り関係者からは、柏崎地区近隣の山車組も受け入れられるように増設を求める声も根強い。[br] 跡地整備に関する具体的な議論は今後本格化する見通しで、市観光課の安原清友課長は「地域や山車振興会と話し合い、何棟がふさわしいのか考えたい」と話す。[br]   ◇    ◆[br] 山車小屋を巡る問題で重要なのは、山車組と地域が互いの窮状を理解し合い、市がその“架け橋”となって環境づくりを進めることだ。祭りを取り巻く現状の変化を、共通認識として受け止めなければならない。[br] 騒音や安全の対策を講じたり、周辺住民との信頼関係を築いたりと山車組の努力はもちろんだが、従来より一歩踏み込んだ行政支援が必要ではないか。[br] 今起きている問題を市民が共有し、伝統を継承する意識を全体に広げていくことが、何よりもの打開策になる。山車小屋の確保が重要な課題となっている八戸三社大祭。山車組、行政、地域による問題意識の共有が重要だ(写真はコラージュ。左から時計回りに、昨年の祭りの山車運行、長者まつりんぐ広場の山車小屋、今年の山車を作る制作陣)