新型コロナウイルスワクチンの高齢者接種事業が10日、各地で本格化した。今週以降、全国の自治体に向けてワクチンが大量配送される。4月12日の開始からまもなく1カ月。実施地域、供給量ともに限定されていた事業は、全面的な実施へと局面が移る。政府は7月末の高齢者接種完了を目標に掲げるが、医療従事者の確保や予約システムの運用が課題として浮上しており、計画通りに進むかどうかは不透明だ。[br][br] これまでに少なくとも1回接種を受けた高齢者は約33万人にとどまる。菅義偉首相は10日の参院予算委員会集中審議で「接種を加速させ、国民の命と暮らしを守っていきたい」と述べた。[br][br] 厚生労働省の4月7日時点の集計によると、5月10日からの1週間に週別では最も多い約390自治体で高齢者接種が始まる見通し。山口県周南市は10日、ショッピングモール「イオンタウン周南」の空き店舗を利用し、集団接種を開始した。東京都北区や神戸市などでもスタートした。[br][br] 青森県南地方の接種状況は、八戸市や十和田市、むつ市などで施設入所者らを優先した1回目の接種が始まっており、10日には大間町で施設入所者への巡回接種がスタート。三沢市や南部町、野辺地町、横浜町、東北町、六ケ所村でも一般高齢者への接種が始まるなど、徐々に対象が広がっている。[br][br] 岩手県北地方では、久慈市、洋野町、一戸町で接種を開始しており、10日には九戸村と野田村で集団接種が始まった。[br][br] 政府は7月末の高齢者接種完了を目指して、5月24日に東京や大阪の大規模接種会場を稼働。ワクチンも10日の週以降、2週間ごとに1500万回分以上を全国に供給して、6月中に高齢者全員分の配送を終える。[br][br] ただ、増えた供給量に対応できる接種の担い手の確保は難航する恐れがある。東京都が10日開いた会議では、7月末までに完了させる目標に関して都内自治体の3分の1が総務省の調査に「間に合いそうにない」と回答したことが報告された。[br][br] 接種予約システムへのアクセス集中による一時停止や、相次ぐ住民からの問い合わせへの対応で自治体の担当部署は多忙を極める。5月20日には米モデルナ製と英アストラゼネカ製のワクチンの承認可否も厚労省で審議され、国内で使えるワクチンが3製品に増える可能性がある。複数のワクチンを効率的に流通、接種する体制づくりが今後の課題となる。[br][br] 一方、接種後に重いアレルギー反応のアナフィラキシーが起きた頻度は接種100万回当たり37件で、他の副反応の発生動向も含めて厚労省の専門部会は「安全性に重大な懸念は認められない」と評価している。