自民党の安倍晋三前首相が、衆院選や党総裁選を見据えて存在感を徐々に強めている。菅義偉首相の続投支持を早々に表明し、党内世論形成に奔走。政権中枢との面会を重ねるほか、若手への選挙指南で同僚を鼓舞する動きも見せる。[br][br]「桜を見る会」問題を受けて表立った発信をしばらく控えていたが、衆院選後の影響力拡大を狙い再始動したとの見方が出ている。[br][br] 持病悪化による昨年9月の首相辞任後初の生出演となった今月3日のテレビ番組。安倍氏は「菅氏が当然、首相の職を続けるべきだ」と語気を強めた。前回総裁選で菅氏の勝利を後押しした安倍氏。中堅議員は「次期総裁選での対立候補の立候補を抑える動きだ」と分析。閣僚経験者は「菅氏を支えるのが最良と判断している」と強調した。[br][br] 桜を見る会に絡む安倍氏後援会主催の夕食会を巡り、東京地検が秘書を略式起訴したのは昨年12月。安倍氏は費用補塡(ほてん)を否定した国会答弁の訂正に追い込まれた。「憲政史上の汚点」と野党の批判を浴び、一度は表舞台から距離を置いたが、最近は動きを活発化させている。[br][br] 安倍氏が拠点とする衆院第1議員会館の事務所には政権幹部の姿が目立つ。初訪米を控えた首相が3月29日に助言を受けたほか、森山裕国対委員長や山口泰明選対委員長も時折訪れている。[br][br] 4月8日には保守系グループ「伝統と創造の会」の顧問に就き、20日には党憲法改正推進本部の最高顧問に就任したことが発表された。22日に開かれた有志グループ「保守団結の会」の会合では「日本を日本たらしめているものは何かと常に思いをはせてほしい」と激励した。[br][br] 15日からは出身派閥である細田派の若手を集めた勉強会への参加を開始。新型コロナウイルスの影響で地盤固めが困難な状況を踏まえ「留守番電話を残すだけでも印象が違う」と支持拡大策を披露した。衆院選では若手の応援に回る意向を周囲に示す。衆院選後に派閥へ復帰すると予測する細田派幹部は「一連の行動の背景には、党に貢献して将来の政治活動につなげたい考えがある」と語った。[br][br] ただ不安材料も残る。桜を見る会問題では検察審査会での審査が続く。妻の昭恵氏が一時名誉校長を務めた森友学園問題を巡る大阪地裁訴訟では、国有地売却の決裁文書を改ざんした過程を記した文書が6月に提出される見通しで、疑惑再燃の可能性もある。