全国の地方銀行の多くが振込手数料の引き下げにかじを切る。銀行間の送金料を固定してきた業界慣行に、政府の圧力でメスが入ったためだ。ただ超低金利や異業種との競争激化など金融機関を取り巻く環境は厳しく、収益が細る銀行は一段のコスト削減やサービスの見直しを迫られる。[br][br] ▽埋まった外堀[br] 「流れは1年前に決まっていた」。ある銀行幹部は昨年4月に公表され、引き下げ議論の発端となった公正取引委員会の調査報告書を振り返る。振込手数料の土台となる送金料は銀行間の個別交渉で決まるとされていたが、実際には長年変わらず金額が横並びと判明。公取委は送金料が「コストを大きく上回る」と指弾し、是正を求めた。[br][br] 銀行側にも言い分はあった。収益源だった預金と融資の利ざやが縮む中、口座を無料で維持するなど利用者サービスにかかるコストを、銀行間の送金料などで穴埋めしてきたからだ。[br][br] だが既得権益の「岩盤打破」をアピールしたい政府側の動きは早く、安倍晋三首相(当時)は「合理的な水準への引き下げを図りたい」と強調。昨年7月に閣議決定した成長戦略に明記され外堀は埋まった。銀行幹部は「送金料が下がったからには、振込手数料を下げないという選択肢は事実上ない」とこぼした。[br][br] ▽脱現金[br] 一般利用者にも恩恵がある振込手数料引き下げだが、メリットが大きいのは「ペイペイ」などに代表されるスマートフォン決済事業者だ。売上金を加盟店に届けるために銀行振り込みを使っており、振込手数料が下がれば頻繁に送金できるようになる。手元に現金がなくなることを恐れてキャッシュレス導入をためらっていた店の加盟を増やせると息巻く。[br][br] これまで銀行の独壇場だった個人間の送金などでも、スマホ決済が領域を侵食している。支払い手段は「長期的には利便性の高いサービスに集約される」(マネックス証券の大槻奈那チーフ・アナリスト)とみられ、捻出できる投資資金が限られる地銀にとっては厳しい競争となる。[br][br] 新型コロナウイルス禍も「脱現金」の流れに拍車を掛け、現金自動預払機(ATM)運用など現金を扱う業務は銀行にとって負担になりつつある。一部ATMの相互利用を始めた三菱UFJ銀行と三井住友銀行は、共同運営に向けた検討に着手。SBIホールディングスも、自らが主導する「地銀連合」でATM運用の効率化を模索する。[br][br] ▽地銀に打撃[br] 今回の見直しによる収益への打撃は、大手銀行よりも地銀の方が大きいとされる。銀行間の送金料は、振り込みを依頼された銀行から振込先の銀行に支払う仕組み。地銀は、都市部の大企業から地域の下請け企業への支払いなどに伴って送金を受けるケースが多く、ある関係者は「減収は年間数億円は下らない」と打ち明ける。[br][br] 銀行サービスの料金を巡っては、入出金のない休眠状態の口座に管理手数料を導入する銀行が昨年以降に急増するなど、見直しの動きが顕在化している。送金料という安定的な収益源が細ることで、こうした流れは加速しそうだ。ある銀行の担当者は「コストに見合った費用を負担してもらう」と明言し、採算が取れていないサービスの値上げを示唆した。