新型コロナウイルスの感染拡大を受けた緊急事態宣言の発令を前に、大阪府の吉村洋文知事が表明した対策案が波紋を広げている。休業要請の対象は土日祝日の飲食店から百貨店やテーマパークにまで及び、人の流れを一気に抑えたい考え。だが、経済への大打撃が避けられない昨年並みの厳しい措置を目指せば、政府との調整難航は必至だ。五輪を控え、同じく宣言対象となる方向の東京都がいつまで、どの程度の対策を取るのかにも注目が集まる。[br][br] ▽最低ライン[br] 「今は人流を抑制することが必要な時期だ」。吉村知事は21日の記者会見で、百貨店などに休業要請する必要性を強調した。飛沫(ひまつ)感染の防止を訴え、飲食店対策の強化やマスク会食の徹底を主張してきた吉村氏。医療体制の逼迫(ひっぱく)で方針転換し、幅広い休業要請に踏み込まざるを得なくなった。[br][br] 大阪府では、20日時点で約2500人が療養先を調整中。府幹部は「府民には申し訳ないが、医療がこの状況では仕方がない」と苦渋をにじませる。[br][br] 一方、都は百貨店や大型商業施設などへの休業要請を念頭に、国と実務者レベルの調整を続ける。都幹部は「多くの百貨店や映画館などを閉じてもらった昨年の措置が最低ラインではないか」と話すが、一部業種の休業に政府から難色を示されているという。[br][br] 小池百合子知事が宣言要請を示唆した18日から既に3日が経過。別の都幹部は「緊急事態なのに、なぜ協議や調整にこれほど時間がかかるのか」といら立ちを隠さない。[br][br] ▽綱引き[br] 政府内には、大阪府の提案を「過剰」(首相周辺)だと捉える声が強い。官邸幹部は「本格的に人出を止めれば、国内総生産(GDP)の落ち込みは今年1月の宣言再発令時とは比べものにならないだろう」と景気へのダメージを不安視する。[br][br] 政府高官は「飲食店が閉まると、食事を取れなくて困る人が出ることも考えなくてはならない」とくぎを刺す。官邸内では、都とバランスを取る必要があるとの声も漏れる。[br][br] 幅広く網を掛けたい自治体と経済活動を重視する政府との綱引きは、初めて宣言が出された昨春と重なる光景だ。都は当時、百貨店を休業要請の対象としたが、政府の反対を受けて生活必需品売り場のみ営業継続を認めることになった。[br][br] ▽売り上げ消失[br] 業界サイドからは懸念の声が聞こえる。日本ショッピングセンター協会は「社会生活を維持する上で欠かせない施設」として、国や大阪府、東京都に営業継続の要望書を提出。日本百貨店協会も吉村知事宛ての要望書で、コロナの影響で約1兆5千億円の売り上げが消失したとし「取引先も含め、事業存続や雇用継続に苦慮している」と窮状を訴えた。[br][br] 大阪府で20日に開かれた対策本部会議では「大型商業施設でクラスター(感染者集団)は発生していない」と、吉村知事の判断の根拠を問う声も出た。他方で従来より踏み込んだ対策を求める医療の専門家は多い。[br][br] 都立駒込病院の今村顕史感染症科部長は20日、厚生労働省に対策を助言する専門家組織会合の後、こう話した。「変異株と闘うには今までと違う手を考えないといけない。飲食店だけでなく多方面で『生活を少し変えざるを得ない』と思わせるようなインパクトがないと、人流は変わらない」