訪米中の菅義偉首相がバイデン米大統領との会談に臨む。中国情勢、気候変動や新型コロナウイルス対策で結束を誇示したい考えだ。「強固な日米同盟」を演出し、秋までに実施される衆院解散・総選挙をにらみ政権浮揚を図る狙いが透ける。だが環境と人権の視点から課題に取り組むバイデン氏と、どこまで足並みを合わせられるかは見通せない。対立する米中の間で、ジレンマを深めるリスクもちらつく。[br][br] ▽新説[br] 「首相は気候変動問題への思い入れが強い。バイデン氏と意気投合する」。政府高官は米東部時間16日の会談を控え、こう期待感を示す。官邸筋も「首相は脱炭素に熱心だ。2人の波長は合うだろう」と力を込める。バイデン氏が大統領選で勝利を確実にした昨年11月ごろから、首相周辺はこうした「新説」を発信し、会談への環境整備を図ってきた。米国向けのイメージ戦略の一環だ。[br][br] 具体策を打ち出したのは、トランプ前大統領が在任中の昨年10月。首相は2050年までに国内の温室効果ガス排出を実質ゼロにすると表明した。翌11月の大統領選でバイデン氏が勝利する展開を想定し、早々と「先手」を打った形だ。[br][br] 外務省幹部は「あの時、温室効果ガス削減への意思を明らかにしていなければ、バイデン政権から大変な圧力を受けていたはずだ」と振り返る。[br][br] バイデン氏と対面式の首脳会談を行う最初の外国要人として、先進7カ国(G7)や中韓の首脳に先駆けて米国に一番乗りした首相。ワシントンへ向かう直前の15日夜、官邸で記者団に「日米それぞれの国の関心事項について、幅広く議論したい」と強調した。[br][br] ▽本音[br] 首相は訪米を政権の求心力向上につなげたい考えだ。共同通信社の10~12日の全国電話世論調査で、内閣支持率は44・0%。コロナ対策に苦慮する中、注目が集まる今回の会談は衆院選へ巻き返しを図れる数少ない機会だ。政府筋は「安倍晋三前首相も日米関係で支持を得た。支持率は上がる」と本音を隠さない。[br][br] だが筋書き通りに進むかどうかは未知数だ。「13年度比26%減」とする30年の温室効果ガスの排出削減目標を巡り、大幅見直しを米側に求められている。台湾への圧力を強める中国への対応では、バイデン氏から相応の負担を迫られるとの観測が流れる。 中国人権問題でも、制裁を発動中の米国と、日中関係悪化を懸念し制裁に慎重な日本との温度差は鮮明だ。米政府筋は「日本との調整案件は少なくない」と指摘する。[br][br] ▽期待[br] 米側は対日重視姿勢を示す。日本に太いパイプを持つキャンベル・インド太平洋調整官が事前折衝に動き、コロナ禍の下での首相訪米を実現させた。関係筋によると、キャンベル氏は政権発足直後、対外政策の名称に関し、日米の前政権が使用した「自由で開かれたインド太平洋」を用いるようバイデン氏に進言。「安全で繁栄したインド太平洋」と呼んでいた同氏に翻意を促し、理解を得たという。[br][br] 「自由で開かれた」というくだりには、覇権主義的な動きを見せる中国をけん制する意味合いがあるとされる。 米国は日本の役割拡大にも期待する。米中対立の主戦場をインド太平洋地域と見込み、日本を対中戦略の中核と位置付けるためだ。米当局者は「インド太平洋で米国が影響力を取り戻すためには日本が不可欠だ」と指摘する。