【原発処理水海洋放出】首相、就任直後から決定時機探る コロナや政局影響

 福島県浪江町の請戸漁港。奥は東京電力福島第1原発の排気筒=7日
 福島県浪江町の請戸漁港。奥は東京電力福島第1原発の排気筒=7日
東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が決まった。昨秋の就任直後から何度もタイミングを探っていた菅義偉首相。処理水の保管容量や新型コロナウイルス、衆院選、東京五輪などさまざまな事情を考慮し、決断に踏み切ったとみられる。事故から10年。廃炉の.....
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 東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出が決まった。昨秋の就任直後から何度もタイミングを探っていた菅義偉首相。処理水の保管容量や新型コロナウイルス、衆院選、東京五輪などさまざまな事情を考慮し、決断に踏み切ったとみられる。事故から10年。廃炉の進展、福島の復興、風評被害―。今も増え続ける処理水という負の遺産に関係者の思いが交錯した。[br][br] ▽下準備[br] 「最後は総理が直接お願いしなければ決着できない。それくらい重く難しい課題だった」(政府関係者)[br][br] 今月7日、菅首相と全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏きしひろし会長の会談が実現した。海洋放出の影響をもろに受ける漁業者の代表として、強硬に反対してきた全漁連との会談は放出決定に向けた最大のヤマ場だった。[br][br] 首相は「近日中に処分方法を決定したい」と持ち掛けたが、岸氏は「海洋放出に反対の立場は、いささかも変わらない」と突っぱねた。 しかし、風評被害への対応や安全性の担保など処理水放出を前提とするかのような五つの要望も伝えた。与党議員は「事実上の受け入れだ」と評価。政府は放出決定の下準備は整ったとして、間髪入れずに13日の関係閣僚会議をセットした。[br][br] ▽先送り[br] 東電は当初、2022年夏ごろに処理水の保管容量が満杯になると試算。放出準備に2年程度かかるため、昨年夏には方針決定のデッドラインを迎えようとしていた。[br][br] 政府関係者によると、菅首相は官房長官時代から海洋放出の必要性に理解を示していた。昨年8月、安倍晋三前首相の突然の辞任劇がなければ「9月に決定していた」との証言もある。菅氏は自民党総裁選への立候補会見で「次の政権で解決しなければいけない」と意欲を見せた。[br][br] 就任後、最初に仕掛けたのは10月。しかし漁業者から想定を超える猛反発を受け、決定は先送りに。経済産業省内からは「反対するのは分かりきっていたこと。今更おじけづいてどうするんだ」と不満の声が上がった。[br][br] 次の目標として年明けが模索されたが、新型コロナ感染の再拡大が障壁となる。1月8日、首都圏に緊急事態宣言が発令され、福島の関係者や漁業者との対話活動は停滞を余儀なくされた。さらに首相の長男が関与した官僚接待問題など政権の失点も重なる。「官邸は処理水どころではなくなった」(経産省幹部)[br][br] ▽決め時[br] 事故で壊滅的な被害を受けた福島県沖の漁業は試験操業を3月に終え、本格操業への移行期間に入ったばかり。一方で東電は2月の地震対応で不手際が相次いだほか、柏崎刈羽原発(新潟県)の核物質防護不備も発覚、信頼は失墜している。[br][br] このタイミングでの海洋放出決定に、福島県選出の与党国会議員は「最悪だ」と嘆いた。[br][br] なぜ今なのか。福島でも競技が開催される東京五輪や、秋までに行われる衆院選への影響を考慮すると、さらなる先送りは難しく、政府関係者は「今しか決め時がなかったのだろう」と首相の心中を推し量る。「百点満点の決着は無理だ」[br][br] 国際原子力機関(IAEA)は日本の決定に理解を表明した。首相は周辺に「国際機関の裏付けがある」と漏らし、自らの判断を正当化した。[br][br] 放出まで残されたのは2年程度。その間の政府や東電の取り組みが不十分なら曲折も予想される。「ここからが正念場だ。粘り強く理解活動を重ねる」。経産省幹部の表情に安堵(あんど)感はなかった。 福島県浪江町の請戸漁港。奥は東京電力福島第1原発の排気筒=7日