新型コロナウイルスの対策として、初の住民接種となる高齢者へのワクチン接種が始まるのを前に、自治体では予約が殺到している。数少ないワクチンを47都道府県に送ることで「4月12日開始」にこぎ着けてメンツを保った国。ワクチンを誰にどういう順位で打つかの悩ましい問題は自治体につけ回しで、現場は早くも混乱の様相だ。[br][br] ▽「売り切れ」[br] 「パソコンで予約しようとしたら、もういっぱい。電話をかけ続けてもつながらない」。東京都八王子市の男性(69)はワクチン接種の予約券(クーポン券)が届いたのを受け、予約開始の5日に予約を試みたものの、途中で諦めた。[br][br] 先着順で受け付けた八王子市。計1900回分の予約枠はインターネットで30分、電話は1時間半後に埋まった。コールセンターに約8万回の電話があった。市は「公平配分」(担当者)の観点から今後も先着順を続けていく。[br][br] 仙台市は、高齢者施設以外は5月下旬ごろから接種を本格化させる。3月末に接種券を郵送すると連日、市役所に問い合わせが相次いだ。担当者は「早めに送ったことで不明点も多くなり、混乱を招いた」と反省する。[br][br] まん延防止等重点措置の対象地域が増え、ワクチンへの期待が高まる中で「早く受けたい」という人は少なくない。国の「コンサート切符を予約するのと違い、売り切れることはない」(河野太郎行政改革担当相)との呼び掛けは響きにくい。[br][br] ▽後ろめたさ 混乱の一因は、ワクチンの供給が伴わないにもかかわらず、高齢者接種を急いだ点にある。当初は「3月下旬」。ワクチン供給の影響などで「4月1日以降」にずれ込み、最終的に4月12日からと定めた。「できるだけ早く国民に接種を」(菅義偉首相)との発信の裏には「体裁を保とう」との思惑も見え隠れする。[br][br] 現状、最優先とされる医療従事者への接種でさえ、まだ序盤だ。政府関係者は「ごく少数でも高齢者接種を4月に始めることが重要」と語る。自民党筋は東京五輪・パラリンピックに向け対策は順調と強調するには「5月開始では、いかにもばつが悪い」と分析した。[br][br] 接種の優先基準を国が示さない点に関し、首都圏の首長は「少ないワクチンを配り、とにかく打てと自治体に押しつけた構図。後ろめたさもあるのだろう」と手厳しい。[br][br] ▽政府に責任 優先順位付けに工夫を凝らす自治体もある。愛知県春日井市は予約を全て受け付けた上で、抽選を実施。担当者は「早い者勝ちだと、朝から時間が空いている人やネットに強い人が有利になってしまうため」と語った。 65歳以上の人の中で線引きするのも、混乱回避の一つの手段。岩手県花巻市は91歳以上、大津市は85歳以上を優先する。[br][br] 福岡市は「誰もが予約できる状況ではない状況で接種券を送れば、大混乱になる」として4月分は予約を受けず、民生委員ら特定の人を先に打つ。東京都日の出町は冷凍庫で保管し、一定量がそろうまで待つ戦略だ。[br][br] 新藤宗幸・千葉大名誉教授(行政学)は「ワクチン量が少ないのに、政府が優先順位の同一基準を示してこなかった責任は大きい」と強調し、接種事業のポイントを挙げる。「みんなが命の危険を感じている。だからこそ、きちんとした情報公開と説明が問われる」