【評伝・田中邦衛さん死去】出会い胸に進んだ役者人生 

 紫綬褒章受章の喜びを語る俳優の田中邦衛さん=1999年4月
 紫綬褒章受章の喜びを語る俳優の田中邦衛さん=1999年4月
ぼくとつとした語り口で親しまれ、3月24日に死去した俳優の田中邦衛さん。人との出会いを大切に役者人生を歩み、テレビドラマ「北の国から」の主人公黒板(くろいた)五郎にも似た真っすぐな人柄が多くの人から愛されていた。 「信じられないほど幸せな出.....
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 ぼくとつとした語り口で親しまれ、3月24日に死去した俳優の田中邦衛さん。人との出会いを大切に役者人生を歩み、テレビドラマ「北の国から」の主人公黒板(くろいた)五郎にも似た真っすぐな人柄が多くの人から愛されていた。[br][br] 「信じられないほど幸せな出会いがあって、ここまで来ることができた」。1999年、紫綬褒章を受けた際の言葉だ。役者として生きていく決心をしたのも、徹底的に鍛えられた俳優座の演出家千田是也さんとの出会いがきっかけだった。[br][br] 若手時代、今井正さんら巨匠監督の作品に端役として出演。特に黒沢明監督の「悪い奴ほどよく眠る」(60年)が印象に残っているという。「あの大監督から一度でOKが出て、うれしかったなあ」。その後、徐々に大役をものにしていった。[br][br] 転機となったのは、81年に始まった「北の国から」。不器用で照れ屋、曲がったことが大嫌い。少し口をとがらして、とつとつと言葉をつなぐ。長男の純(吉岡秀隆さん)、長女の蛍(中嶋朋子さん)とラーメン店で食事をする場面は、特に印象的だった。[br][br] 「どうした、(麺が)伸びるぞ」と五郎が勧めるが、不注意で火事を出してしまった経緯を正直に告白しようとする純は涙で箸が進まない。そんな純を五郎は一切責めないが、早く看板にしたい店員が不機嫌にどんぶりを下げようとすると、火を噴くような演技を見せる。「子どもが、まだ食くってる途中でしょうが!」。武骨で人間くさい五郎の姿は、名シーンとして視聴者の心に刻まれた。[br][br] 役作りには葛藤もあった。演出を手掛けた杉田成道監督から厳しい指導を受け「現場ではポツンとしていた。友達はキタキツネだけ」と振り返ったこともあるが「裸の気持ちで演技する」ことを覚え、自身の代表作に。「(舞台の)富良野に行くとほっとする。『五郎さん』って呼ばれるとやっぱりうれしい」と話していた。[br][br] 田中さんにとって、共演者はかけがえのない宝物だった。五郎の友人役を演じた地井武男さんが2012年に亡くなったときの悲しみは深く、お別れの会で「何と言われようと信じられない」とおえつを漏らした。[br][br] 最近は公の場に姿を現さず、静かな暮らしを送っていた田中さん。ゆっくりとした足取りで、人々の心に大きな足跡を残した俳優だった。 紫綬褒章受章の喜びを語る俳優の田中邦衛さん=1999年4月