「公共」、理念と現実相克 リアルさ重視、議論促す

高校の新学習指導要領の目玉で、政治や社会への関わり方を学ぶ新科目「公共」の教科書は12点全てが合格した。リアルな社会問題を提示して議論を促す工夫が目を引く一方、受験対策を意識した「知識詰め込み型」から脱却しきれていないものも。理念と現実が相.....
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 高校の新学習指導要領の目玉で、政治や社会への関わり方を学ぶ新科目「公共」の教科書は12点全てが合格した。リアルな社会問題を提示して議論を促す工夫が目を引く一方、受験対策を意識した「知識詰め込み型」から脱却しきれていないものも。理念と現実が相克する新しい教科書は、生徒たちにどんな学びを提供するのか。[br][br] ▽こだわり[br][br] 「なぜ差別入試を行ってきたのだろうか」。教育図書は2018年に発覚した医学部不正入試問題を4ページにわたり特集した。女性を不利にする得点操作という高校生の関心が高いニュース。家事や育児を女性の役割とする固定観念が根強く、医療現場の過酷さと相まって女性が敬遠されがちだったと丁寧に背景を説明した。 最後は「大学入試で女性が優遇されるとしたらどうか。男性、女性の立場から議論してみよう」と問い掛け、逆の視点からも考えさせた。教育図書の担当者は「ジェンダーの問題を掘り下げられるようこだわった。実際の授業が楽しみ」と胸を張る。[br][br] 各社とも選挙権年齢の引き下げや、成人年齢が18歳になることを意識し、政治参加を促す模擬選挙や契約トラブルの回避策などに言及。ワクチン接種の優先順位や同性婚といった今日的テーマも積極的に採用した。[br][br] ▽多角的考察[br][br] 「公共」の創設は、12年衆院選の自民党政策集に盛り込まれたのがきっかけだ。当初は社会規範を教える「高校版道徳」の面が強調されたが、18歳選挙権が実現する流れに沿い、中教審の議論で「社会の課題を多角的に考察、議論し解決につなげる力を養う」との目標を掲げることで落ち着いた。「保守色の強さを懸念した文部科学省が穏当なものになるよう動いた」(教育関係者)と見る向きもある。[br][br] 「多角的考察」の目標は教科書に反映されたのか。核兵器禁止条約について「日本の不参加をどう考えるか」と問う内容が合格。文科省が政府見解の正確な記述を求めるのが通例の領土問題でも、相手国の主張を調べるといった幅広い考察や議論を勧める記述に意見は付かなかった。編集関係者からは「(文科省から)修正を求められると思っていたので拍子抜けした」との声が上がる。[br][br] あるベテラン執筆者は、領土問題のような見方が分かれるテーマに取り組むことで異なる立場の人と問題を共有し、議論できる力を養えると強調。「政府に問題があれば指摘するのも、主権者の役割と学んでほしい」と訴える。[br][br] ▽根強い需要[br][br] 生徒の主体的な学びを引き出すような意欲的な試みが随所に見られる一方、現行の「現代社会」の教科書のように用語を羅列する形式を踏襲した記載も目立つ。執筆に従事したある高校教員は「知識の寄せ集めになってしまった」と明かす。[br][br] 「採択への影響を考え、学校現場からの要望を反映させざるを得ない」と指摘されることの多い教科書会社側。今後も細かい知識を問う大学入試が続くと想定する教員からは、暗記中心の学習に対応した教科書の需要が根強く、議論や探究を重視する授業に転換することへのためらいもあるとされる。[br][br] 執筆者の大学教授はこう振り返った。「理想の教科書は生徒が考え、議論するための“資料集”。しかし、それだけでは現場は回らない。理念と現実がせめぎ合った結果だ」