【連載・えんぶりのない冬】(上)苦渋の決断

昨年、奉納摺りを披露するえんぶり組。今年は新型コロナの影響で中止となった=2020年2月、八戸市の長者山新羅神社
昨年、奉納摺りを披露するえんぶり組。今年は新型コロナの影響で中止となった=2020年2月、八戸市の長者山新羅神社
北国に春を呼ぶ民俗芸能「八戸えんぶり」が開幕した2020年2月17日。八戸市内は前日から降り続いた雨やみぞれが弱まり、各えんぶり組は市中心街を舞台にした「一斉摺(ず)り」で勇壮な姿を見せた。子どもたちはお囃子に合わせて愛らしく舞い、沿道の観.....
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 北国に春を呼ぶ民俗芸能「八戸えんぶり」が開幕した2020年2月17日。八戸市内は前日から降り続いた雨やみぞれが弱まり、各えんぶり組は市中心街を舞台にした「一斉摺(ず)り」で勇壮な姿を見せた。子どもたちはお囃子に合わせて愛らしく舞い、沿道の観覧客は万雷の拍手を送る―。そこにはいつもの光景があった。[br][br] 一方、その頃、国内では新型コロナウイルスの猛威が広がり、クルーズ船の集団感染も確認。2月下旬、当時の安倍晋三首相は学校の臨時休校を要請し、コロナ禍は急速に拡大した。[br][br] 現在も感染収束は不透明感が漂い、市中心街で開催された大規模イベントは昨年の八戸えんぶりが最後となる。この1年間で日々の暮らしや社会環境は一変し、今年の八戸えんぶりは中止に追い込まれた。[br][br]   ■    ■[br][br] 八戸地方に伝わるえんぶりは、約800年の歴史を誇る国の重要無形民俗文化財。八戸市教委によると、大正期以降で行事の中止は3度目となる。1914(大正3)年は大凶作で、27(昭和2)年は大正天皇崩御を受け、それぞれ当時の豊年祭を取りやめている。[br][br] 今年はコロナ禍でも関係者が開催の道を探った。だが昨年11月、長者山新羅神社が「奉納摺り」と「長者山稲荷大神御神輿(おみこし)渡御式」の両神事の中止を決定。一斉摺りなどを主催する八戸地方えんぶり保存振興会は実施に向けて協議を進めたが、1月18日の臨時総会で全行事の開催を断念した。[br][br] 決断の背景には、各組にくすぶる感染の不安があった。子どもの出演は保護者らの理解が得られにくく、社会人が職場から参加自粛を求められるケースも少なくない。高齢者の重症化リスクも懸念材料となった。[br][br] 練習場所のえんぶり宿などは、感染防止の「3密」回避も難しい。1月中旬の時点で参加意向を示したのは15組。昨年の33組の半分以下にとどまったのも中止に傾いた要因となった。[br][br] 県南地方では南部、おいらせ、階上、五戸の4町でも恒例のえんぶり行事が見送られた。八戸地方えんぶり連合協議会の大館恒夫会長は「800年の歴史があるえんぶりを中止にするのは苦渋の決断。残念な思いが大きい」と唇をかむ。[br][br]   ■    ■[br][br] 近年はえんぶりを巡り、伝承や愛着を育む取り組みが活発化している。市教委が制定した「えんぶりの日」もその一つ。八戸えんぶり開幕日の毎年2月17日は市立小中学校を休みとし、子どもがえんぶりに親しむ環境づくりを進めた。[br][br] 19年度からは、えんぶりの実態調査に着手。市教委などが23年度までの5カ年にわたり、北奥羽地方に現存する45組の特色や活動遍歴を掘り起こす。歴史的な価値に光を当て、将来の伝承につなげる狙いもある。[br][br] 今冬は八戸えんぶりを見ることはかなわないが、伝統は確かに息づいている。17日は「取締えんぶり組」の代表者が長者山新羅神社を参拝し、五穀豊穣と安寧の祈りをささげる。筆頭取締・売市えんぶり組の坂本健代表は「コロナ終息を祈願し、来年こそは大勢の人の前でえんぶりを披露したい」との思いを強くする。[br][br]  ……………………[br][br] 新型コロナの影響で、例年17日に開幕する「八戸えんぶり」は今年、中止を余儀なくされた。主催者が下した決断の背景や伝統の継承に向けた取り組み、えんぶりと関わりが深い八戸市中心街のにぎわい創出の方策を探る。昨年、奉納摺りを披露するえんぶり組。今年は新型コロナの影響で中止となった=2020年2月、八戸市の長者山新羅神社