天鐘(12月31日)

雪夜の静寂は深い。ひそやかに降る雪の結晶が、音の正体である空気の振動を包み込む。それでも耳を澄ませば聞こえる気がする。さらさら、ふわふわ、しんしん。ふと気配を感じて窓の外を見れば一面の銀世界▼思いも寄らない1年だった。コロナは瞬く間に世界を.....
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 雪夜の静寂は深い。ひそやかに降る雪の結晶が、音の正体である空気の振動を包み込む。それでも耳を澄ませば聞こえる気がする。さらさら、ふわふわ、しんしん。ふと気配を感じて窓の外を見れば一面の銀世界▼思いも寄らない1年だった。コロナは瞬く間に世界を覆い尽くし、人々を不安に陥れた。暮らしは一変し、多くの音が失われた。桜を愛(め)でる春のにぎわい、夏の夜空を焦がす花火と歓声、出来秋を祝う祭りのお囃子(はやし)▼ささくれ立つ心を癒やしたのは、そこにある自然だった。鳥のさえずり、小川のせせらぎ、風のそよぎ。以前よりも増えた家族の語らいが前を向く力になった。身近な大切なものに気付かされる日々でもあった▼人は音に囲まれて生きている。世の中にあふれる音によって、物事の存在や状況を知り、情報や意図を読み取り、気持ちを動かすという。だからこそ音がないことに寂しさを、音があることに喜びを感じたのだろう▼これまでは気にとめず、顧みることもせず、耳を傾けてこなかったかもしれない。かつての日常は非日常に変わった。もはや懐かしくもある。いま胸に刻みたいのは「当たり前」の尊さであり、それに対する感謝である▼雪のせいもあるのだろうか、いつになく静かな年の暮れである。気兼ねなく音を楽しめる新しい年であってほしい。変わらず優しく響くであろう除夜の鐘に願いを込めてみる。