東京証券取引所で10月に発生したシステム障害により株式全銘柄の売買が終日停止した問題で、金融庁が東証と親会社の日本取引所グループ(JPX)に業務改善命令を出した。経営責任を明確化するとして東証の宮原幸一郎社長が辞任した。[br][br] 内外投資家による資産形成や、企業の資金調達の場として活用されている東証で起きた前代未聞の事態は、国際的な市場としての信頼を揺るがせた。金融庁の対応や宮原社長の引責辞任は当然のことである。[br][br] 菅政権は、東京に世界から投資や金融機関の誘致を進め国際金融都市づくり構想を掲げており、株式市場として東証の安定と信頼は欠かせない。東証にはシステム上の不備を修正し徹底した障害の再発防止への取り組みが求められる。標語に掲げる「ネバーストップ(止まらない)」株式市場の実現へ、覚悟をもって臨んでもらいたい。[br][br] システム障害は、株式売買システム「アローヘッド」内部で発生した。株価など相場情報の配信ができなくなり、しかも、障害時に自動的に切り替わるはずだったバックアップシステムへの移行も不能になった。システムを回復させるために再起動処理を行う手段があったが、未成立の注文をめぐって投資家や市場参加者の混乱を招く恐れがあるため、終日売買停止の措置を決めたと説明している。[br][br] JPXの社外取締役による調査委員会は、バックアップ装置への自動切り替えが作動しなかったのはシステムの設定ミスが原因で、システムを開発した富士通の検討が不十分だったと認定した。[br][br] また、障害時も予定通りの8時の注文受け付け開始、9時の取引開始を絶対視したことで、入ってきた注文のためにかえって障害復旧後の円滑な取引再開ができなかったと指摘。「本末転倒」の対応が終日取引停止という事態を招いたとの見解を示した。[br][br] 今後は、障害後の取引再開の基準や再開判断の手続きを明確にし、発注済みの注文の扱いをどうするか、東証と証券会社のシステム対応などの在り方が課題となる。JPXの清田瞭・最高経営責任者(CEO)は暫定的に東証の社長を兼務し、再発防止と市場の信頼回復に全力を尽くす姿勢を示したが、JPXの経営責任も免れない。[br][br] システムでの障害発生は避けがたいが、バックアップが作動して被害の発生を防止できるかが鍵となる。東証はITの装置産業だということを忘れてはならない。